石破首相率いる日本が日米首脳会談で得たもの
関税強化圧力に怯えていた石破首相は、いくつかの巨額の“貢ぎ物”を用意し、ホワイトハウスに持ち込んでトランプ大統領のご機嫌をうかがった。もちろん、それらが日本にとって、大きな重荷になるのは承知のうえだ。
“貢ぎ物”の一つは、すでに輸入が行われているテキサス州やルイジアナ州のLNGとシェールオイルの輸入量を拡大することだ。日本としては、これによって中東依存を減らし、エネルギー供給の多様化を図りたいわけだが、米国からの調達はコスト的に中東より高くつくのが現状だ。
トランプ大統領はこのほか、アラスカ州の天然ガスパイプライン建設計画への日本の支援を求めたようだ。同州北部のガス田から全長約1,300キロメートルにわたるパイプラインを建設し、南部の液化施設まで天然ガスを輸送。そこで液化天然ガス(LNG)に加工し、主にアジア市場へ輸出するプラン。総投資額は約440億ドル(約6.8兆円)と見積もられている。
ただし、環境団体からの反対や、プロジェクトの経済性に関する懸念が指摘されており、日本政府としてこのプロジェクトを支援するかどうかは今のところ不明だ。もし、パイプラインの建設にまで関わることになれば、日本の負担増ははかりしれない。
1兆ドル(約150兆円)もの莫大な対米投資を約束したのも、日本企業や政府系ファンドにとって、大きな財政的負担につながる可能性をはらむ。国内の産業競争力やインフラ投資に悪影響を及ぼしかねないだろう。
ともあれ、トランプ大統領との間で、ひとまず友好的なムードをつくれたのは石破首相にとって一歩前進だ。日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールの買収計画についてトランプ大統領から「買収ではなく投資だ」と、これまでよりは前向きな発言を引き出したことも評価できる。
USスチールは米国を代表する鉄鋼メーカーであり、特にラストベルト(衰退した工業地帯)の有権者にとって象徴的な企業だ。トランプ氏は買収に対する労働組合や保護主義的な支持者の反発を抑えるため、大統領選の期間中は「買収」を認めない方針を表明していたが、ここへきて態度を軟化させつつある。
日本製鉄としては経営権を握らなければ投資する意味がない。そもそもUSスチールの競争力を向上させるには、日本製鉄の管理の下で技術革新や経営改革を進める必要があるというのが両社の共通認識だ。トランプ大統領はそれを承知のうえ、米国内のナショナリズムに配慮し、「投資ならOK」として話を前に進め、落としどころを探っていきたいのではないだろうか。
後日の会見でトランプ氏は、日本製鉄がUSスチールの株式の過半数を持つことはできないと語ったが、もしそうなるにしても、取締役会の構成や経営方針の策定で日本製鉄が主導的な役割を果たすことにより、経営に対する実質的な影響力を確保することが可能だろう。









