出口なき行き詰まりが増幅させる苛立ち。怒りと憎しみに覆われた“トランプ時代”から全人類を救う日本古来の「智慧」とは?

 

欧米と日本の文明を分ける「森への人間の関わり方」の違い

  • 欧米=麦作牧畜文明=怒りの文明・力の文明
  • 日本=稲作漁撈文明=安らぎの文明・慈悲の文明

この対比こそ、現代世界とその中での日本の位置を考える場合の出発点でなければならない。梅原は晩年近くに書いた『人類哲学序説』(岩波新書、2013年刊)では要旨こう述べている。

▼日本文化の原理の中に、西洋文明の行き詰まりを解決し、そして新しい人類の指針となるような思想が潜在しているのではないか。……50年近く日本文化を研究した結果、どうやら天台本覚思想に日本文化の本質を解く鍵が隠されていると思うようになりました。天台宗は最澄によって創始された、法華経を根本経典とする仏教で……それを円珍・円仁が密教化し、さらに比叡山中興の祖である良源が、天台宗の思想と真言宗の思想を合体させて天台本覚思想として完成させたのです。

▼この天台本覚思想は、およそ「草木国土悉皆成仏」という言葉で表現されるものです。……ここでは動物の成仏については触れていません。動物の成仏は当然で、草木さえ成仏します。草木ばかりでなく国土までもが成仏できる、と言うのです。国土も「生きとしいけるもの」に含まれる。

▼「草木国土悉皆成仏」は縄文以来の森の中の狩猟・漁撈生活の中から生まれた日本文化の特徴を示す思想であり、それに弥生以降、中国から稲作農業とともに太陽と水への信仰が入ってきて重なり合い、森の文明は深化した。一方、ヨーロッパの思想は牧畜と小麦農業文明の生み出した世界観です。この世界観では、森は文明の敵であり、木を伐り森を破壊することによって文明が始まるという思想に導かれています……。

結局、森への人間の関わり方の違いが、欧米と日本=アジアの文明を分けるのである。私は、このような梅原や安田の議論に昔から共感していたが、14年前に3・11の大災害に直面して脳が真っ白になって何も考えられない状態に陥った時、最初にボンヤリと浮かんできたのが「草木国土悉皆成仏」という言葉だった。

それで、同年3月20日付の災害後の最初の本誌で「日本は『核なき世界』への先導者になるべきだ」ということを書き始め、以後、その根拠として上掲の安田や梅原の議論を紹介しつつ、「縄文以来1万3,000年の日本農耕文明」の世界史的な使命を盛んに強調したのだった。その論旨は、本誌の関連記事をベースにしてまとめた『原発ゼロ社会への道程』(書肆パンセ、12年7月刊)の第6章「日本人本来の精神文明に立ち返ろう」に詳しいので、ご関心ある方は参照して頂きたい。

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