MAG2 NEWS MENU

日本国民に実はプラス?「トランプ関税」で損する人得する人。コメ価格から円安、対米従属まで自民「安倍政治」清算の好機に

24%の「トランプ関税」に、日本の産業界がざわついている。マスコミ報道では、輸出メーカーを中心に大きな痛手になるとの論調が主流だ。だが、日本は外圧でしか変わらない。実はこの「トランプ関税」には、多くの国民にとって嬉しい「プラスの側面」もあるという。日米の政治経済に明るいエコノミストの斎藤満氏が解説する。(メルマガ『マンさんの経済あらかると』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプの破壊力の使い方

プロフィール斎藤満さいとう・みつる
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

自民党が国民に教えたくない「トランプ関税」のプラス側面

第二次トランプ政権ではトランプ氏の破壊力が一段と増幅しています。

グリーンランドやスエズ運河の買い取りに始まり、自ら大統領の3選を可能にする憲法の改編まで考えています。そして関税を手段として、世界のルールを米国の利益にかなう形に変えようとしています。第一次政権では中国を対象にしていましたが、今回は世界を変えようとスケールアップしてきました。

このトランプの破壊エネルギーは日本にも向けられています。4月9日からは日本の輸出品に事前予想を上回る24%の相互関税が課せられることになりました。トランプは理由として、非関税障壁まで入れると実質46%の関税を日本が我々にかけているからだと指摘しました。

この動きは日本の産業界には大きな被害となります。ですが、米国にとっての非関税障壁は、ある意味では、これまで抑圧されてきた日本の国民にとっても非関税障壁のような制度、ルールとして働いていました。

トランプ関税と向き合うのを機に、日本国民の負担になっている制度を見直すことは、わが国の利益になる面があります。これまで安倍政権を中心に、大企業や一部の勢力の利益を優先してきた制度を改変するチャンスでもあるわけです。

【関連】石破総理を操る黒幕「米外交問題評議会」は新NISAをどう“利用”してきたか?日米選挙後にトレンド大転換も(斎藤満)

(1)中抜き排除の農政改革でコメ価格を正常化する

予想外に高い相互関税が提示された要因の一つに、米国産米への「700%関税」があります。関税自体はキロ当たり341円で、700%にはならないのですが、非関税障壁と感じられる部分まで含めると、米国業界は700%と感じている、ということのようです。

日本の非関税障壁に対するトランプ大統領の攻撃は、これまでの自民党政治における財界支援偏重姿勢に変革を求める形になります。その1つが農政です。

今回、「令和の米騒動」や「令和の百姓一揆」の発生が、社会に大きな問題を投げかけました。コメ農家には低価格が、国民には高価格が同時進行して、それぞれの生活を圧迫している問題が露呈しました。ここに農政のゆがみがあります。

国民にとってのコメ価格は直近で平均5キロ4200円と、昨年の2倍の高価格になっています。その一方で、農家は60キロ2万円での引き渡しとなっていて、経費を差し引くと農家の収入は1万円にしかならず、時給10円では後継者も見つからないと訴えました。コメ農家にとっては60キロ2万円(5キロ1700円)が30年も続き、収入が増えない一方で、消費者には5キロ4200円に高騰する事態が同時進行しています。

つまり、今の日本のコメの流通過程には、生産者価格よりも大きな「流通マージン」があって、これが大きくなって最終消費者に「高いコメ」を届ける羽目になっていることが確認されたのです。

実際、一部の料理店や企業は直接農家から買い入れ、安いコストで営業するようになっています。このため、農協などの卸業界に入るコメが少なくなっています。

自民党は「農家を守るため」と言って輸入米に高い関税をかけていますが、5キロ1700円なら、米国のカリフォルニア米に大きな関税を課す必要はありません。むしろ、農協などの流通組織を守るための関税と見られます。そこをトランプ大統領に突かれました。

コメをネットなどで農家から直接買い付ければ、消費者は今の価格の半値以下でコメを買えることになります。しかし農協票が欲しい自民党は農協保護に走ります。

この30年、農家から出るコメ価格が5キロ1700円で変わらないのに、消費者が直面するコメ価格が2000円から4200円に急騰した裏には、コメの生産量よりも流通過程での「中抜き」が大きな要因になっていることになります。ここにも流通業界の間に値上げマインド、インフレマインドの醸成が確認できます。コメの高値は政府日銀の責任になります。

自民党では手を付けられないこの部分を、トランプの「外圧」で崩すことになれば、農政は大きく変わり、結果として消費者は安いコメにありつけます。農政を直接変えられなくても、米国産米の関税を引き下げ、安価で国内に供給すれば、結果として国産米の価格も下げざるを得なくなります。輸入が増えすぎれば政府備蓄米の補填に回せばよいでしょう。これはトランプ関税の24%を下げさせるための交渉材料にもなります。(次ページに続く)

【関連】9.11でWTCから生還した日本人金融マンが語る「紙一重の脱出劇」日本も他人事ではないテロ・災害避難の教訓として(斎藤満)

(2)消費税を廃止する

そして前回も紹介しましたが、日本の消費税もトランプ氏に言わせれば非関税障壁であり、米国の自動車輸出などに不公平をもたらしていると見られています。

彼の不満を回避するには、消費税を廃止するか大きく引き下げるしかありませんが、政府与党は簡単には受け入れられないとしています。野党からすれば、この外圧を利用して消費税引き下げ交渉に出る手はあります。

トランプ圧力を軽減するもう1つの手は、消費税を国税から米国のように地方に移管し、米国同様に地方自治体ごとの「セールスタックス」に変えることです。そうすれば米国と同様の条件になります。国は簡単には放棄できませんが、地方に移管して、その分地方交付税(約16兆円)の見直し、再配分を考える道があります。

(3)行き過ぎた円安を修正する

トランプ政権は日本の円安と、これをもたらす低金利政策を非関税障壁としています。円安・低金利は、国民にとっては負担が大きい一方、産業界には大きなメリットがあります。

これを外圧によって修正することになれば、これまでの産業支援型の自民党政治にメスを入れることができます。

産業界にはデメリットですが、一般国民にとっては輸入コストが低下し、金利のある世界はプラスになります。結果として、日本の政治の目が、産業界から国民に向けられることになり、本来の政治の姿に戻る面があります。

(4)「ジャパン・ハンドラー」を追い出す

戦後、米国には敗戦国日本を操る勢力、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」がいて、彼らが事実上日本を支配してきました。近年ではリチャード・アーミテージマイケル・グリーンといった名前が上げられます。

彼らはある意味では日本を知り尽くし、米国に都合の良い形に操ってきました。これをトランプ2.0は追い出す形となりました。

もちろん、トランプ政権が新たにジャパン・ハンドラーを用意する可能性もないではありませんが、ここまでは「デストロイヤー」として既存制度を破壊する面が色濃く出ています。

彼らにすがってきた自民党政権には不安要因でしょうが、石破総理は日米地位協定を念頭に、これまでの日米関係の見直しを望んでいるだけに、米国寄りの制度を見直すチャンスとなります。(次ページに続く)

「トランプ関税」最大の論点は「誰の利益を重視するか」だ

トランプ関税という外圧によって、これまでの日本の“企業寄り”の制度を変えていく政治コストは小さくありません。

しかし一方で、従来のシステムを放置して24%もの「相互関税」を負担していくコストも大きく、両者のコストを天秤にかけることになります。国民の利益を重視するなら、外圧を利用して農政、消費税、円安を修正することが関税コストの低下と合わせて利益となります。

一方、産業界、農協の利益を優先すれば、相互関税のコストを日本全体で負担することになります。トランプの破壊力も、使い方によって国民の利益につながる面があるわけです。アベノミクスと距離を置く石破政権ならではの判断が注目されます。

【関連】中島聡が「ラピダスの大敗北」を直感する理由。TSMCになれない日本の半導体メーカーが抱える「最大の弱点」とは?

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年4月4日号「トランプの破壊力の使い方」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。当月配信済みバックナンバーもすぐに読めます。

この記事の著者・斎藤満さんのメルマガ

初月無料で読む

 

image by: 首相官邸ホームページ

斎藤満この著者の記事一覧

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 マンさんの経済あらかると 』

【著者】 斎藤満 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月・水・金曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け