株高に踊る世間に背を向け、昨年後半から「長期保有のETFやコア銘柄を除いて株式のポジションを減らし、現金比率を高める」方針を明らかにしていた作家・投資家の鈴木傾城氏(関連記事1、関連記事2)。マーケットは目下「トランプ関税」で急落しており、その相場観は正しかったと言えるだろう。だが、鈴木氏が「自分の予想が当たった」と誇ることはない。なぜなら、株式市場で金を稼ぐにあたって、何かを「予想」することほど無駄なことはないからだ。買いの好機が少しずつ近づいているとしても、どこが底値かは誰にもわからない。だからこそ私たちは、揺るぎない投資の哲学と手法を身に付ける必要がある。(メルマガ『鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
「トランプ関税ショック」はこれから長らく続く混乱と低迷のプロローグ
2025年4月2日、アメリカのトランプ元大統領が再選後初となる大型政策を発表した。「アメリカの雇用を守る」と称して、すべての輸入品に対して10%の一律関税を課すと発表した。
加えて国ごとに関税率を数十パーセントに引き上げ、たとえば中国からの輸入には34%、EUには20%、日本には24%という追加関税を設定している。この一連の政策は「リベレーション・デー関税」と命名された。
その発表は仰々しく、米国第一主義に基づいた政治的パフォーマンスとも受け取れるものでもあった。
当初「トランプ大統領は関税については交渉の道具として使い、実際にはそれほど大きな関税をかけないのでは?」と思われていたのだが、トランプ大統領は本気だった。楽観的な予想をしていた市場はショックを受けて即座に反応した。
S&P500は当日3.4%下落し、ナスダックは6%近い急落、ダウ平均は1,600ポイント以上を失った。これはパンデミック初期の2020年3月以来の暴落幅である。為替市場も混乱し、ドルは主要通貨に対して大きく下落している。
特にリスク回避の動きが強まり、ドル円も1日で4円以上円高に振れた。投資家が安全資産へ資金を移し、円や金への需要が高まったことが背景にある。
これらの動きは「一時的なショック」ではない。これから長らく続く混乱と不透明感と低迷のプロローグだ。
今回の関税発動で輸入コストが上昇していくのだから、アメリカ国内の物価は上がる。すでに米国のインフレ率は前年比2.3%上昇しているのだが、さらに家庭1世帯あたり年間で約3,800ドルの追加負担が発生するとの試算が出ている。
これにより、当然のことながら消費は冷え込む。すると企業の売上と利益が減少し、設備投資も抑制される。加えて、報復関税として他国も輸入規制を強化するため、輸出企業の業績も悪化する。
景気が悪化していくのであれば、株価が致命的なまでに下落するのは子供が考えてもわかる話でもある。
どれほど株価が下がるかを事前に読める投資家は少ない
トランプ大統領が柔軟に対応するのか、それとも意固地になって関税強化を進めるのかはわからない。いずれにしても経済状況はガラリと変わってしまったわけで、今後の株式市場は長期間にわたって低迷する可能性が極めて高い。
今回の暴落は単なる調整局面ではなく、保護主義とグローバル経済縮小の始まりである。マーケットはすでにその予兆を織り込み始めている。
ただ、予測は無駄だ。激震がきているのはわかっていても激震がどういう決着を見せるのかはわからない。市場は動揺しているが、どこで底を打つかもわからない。トランプ大統領は予測不能であり、未来の価格水準や反発のタイミングを特定することは不可能である。
もっとも、トランプ大統領が原因ではなくても、市場の予測なんかしたところでその通りに動くと思うのは間違いだ。
2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のパンデミック、そして2022年のインフレ危機、すべてに当てはまる話だが、「衝撃的なことが起きそうだ」とか「起きた」というのはわかっても、その後の底打ちや上昇のタイミングはいずれも専門家の大半が事前に正確な予測を出せなかった。
2008年の金融危機では、大手格付け会社やウォール街のアナリストがサブプライムローンのリスクを過小評価していた。その結果、リーマン・ブラザーズの破綻後、S&P500は1年間で57%の下落を記録した。
2020年のコロナショックでも、経済の停止による急激な需要蒸発が想定外だったため、相場は数週間で30%以上も急落した。いずれも予兆はあったが、実際にいつ起きるか、どれほど下がるかを事前に読めた投資家は少ない。
結局、株価の「底」を探そうとする行為自体が非合理的である。
アメリカがグローバル経済を否定する異様な時代に
相場が下がる時、多くの投資家は恐怖を感じる。特に大きな下落を目の当たりにすると、追加投資を控えたり、損切りをしてしまうことがある。今回の場合、グローバル経済の巨人であるアメリカがグローバル経済を否定しているわけだから、想定外の事態に「恐慌」を口にする専門家すらもいるくらいだ。
だが、長期投資の観点から見ると、下落局面こそがもっとも重要な買い場になる。バーゲンセールで優良企業の株式やS&P500連動ETFが手に入るのだ。
「落ちたナイフはつかむな」という言葉がある。これは、急落中の資産を買うとさらなる損失をこうむる危険があるという警句である。たしかに短期トレードでは正しいのかもしれないが、長期投資においては、むしろこの「落ちたナイフ」を拾うことが資産形成に直結する。
価格が低い時期に積み立てを続けることで、平均取得単価が下がり、将来のリターンが大きくなるからである。
すでにS&P500は6100ドル台から5200ドルを切るところまで落ちているわけで、15%近い下落率となっている。調整局面入りである。関税が強化されるのは確実なので、これから経済は低迷していく確率が高い。
しかし、どれくらの規模で、どれくらいの期間で、どれくらいの深刻度で株式市場が悪影響を受けるのかは何もわからない。逆に、何か事態が変わって上昇するにしても、いつ何がきっかけで相場が転換していくのかは誰にも予測できない。
これは、VIX指数を見ようが、国債利回りを見ようが、PutCallレシオを見ようが意味がない。当たり前だが、そんなものはトランプ大統領の言動や各国の対応ひとつで一瞬で変わってしまう。指数やレシオが何かを約束するものではない。
株式市場が下がっていこうとしているのはわかるが、底はわからない。そんなときに、将来の大きな利益をつかむためにやるべきことがあるとしたら、何だろうか?
下落局面では、この手法がより大きな効果を発揮する
下落は長期投資家にとってはチャンスでもある。優良企業やS&P500連動指数ETFが安く買えるからだ。底値がわからないのであれば、平均を狙えばいい。それを実現するのが「ドルコスト平均法」である。この「ドルコスト平均法」は――(本記事は、メルマガ『鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編』2025年4月6日号を一部抜粋、再構成したものです。続きはご購読ください。ドルコスト平均法の基本はもちろんのこと、株価の暴落局面でこそ最も重要となる情報の取捨選択や投資心理について、鈴木傾城氏が詳しく解説しています)
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米国株式投資の新たなバイブル
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鈴木氏が提唱する投資方法は、短期的なマーケットの上げ下げに惑わされることなく、着実に不労所得を構築していくためのもの。たとえば突然、NYダウ指数やNASDAQ指数が-80%の大暴落に見舞われたとしても自分の老後は安泰。そんな、巷の「株バブル」とは一線を引いた資産運用の普及・啓蒙につとめています。
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- 長期の不透明感と低迷が予測される今回の動きで株式をどう買っていくか?(4/6)
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