トランプ関税は「最も深刻な自傷行為」と米国内から猛批判も。嫌気が差した東南アジアが中国・習近平の訪問を歓迎した理由

 

トランプはASEANで存在感を示す習近平に不快感

中国とASEANの関係は、単に鉄道建設という視点だけで見ても、目が離せない勢いで急速に進んでいる。

前述した中国南部とベトナム北部の都市を結ぶ鉄道は、当然のこと将来的には中国ラオスを結ぶ鉄道や、タイで進められている鉄道網とも一体化する予定だ。

タイの内閣は2月4日、中国タイ鉄道の第2期プロジェクトの決議を採択している。

中国とタイの関係は、今回の習近平のASEAN3カ国歴訪の前に、ペートンタン・シナワット首相が訪中(2月上旬)していることからも良好さが際立つ。

ペートンタン首相は中国東北の都市・哈爾浜で行われた第9回アジア冬季競技大会開会式にも出席し、自らを「中国系の血を引くタイ首相」と語った。

中国とカンボジアの深い関係はいまさら指摘するまでもないが、象徴的なのはフン・マネット首相が就任して初めて公式に訪ずれたのが中国だという事実だ。

現在、カンボジアでは首都プノンペンを流れるバサック川をまたぐバサック川大橋プロジェクトが進行中で、2027年に開通予定だ。これは中国とカンボジアの協力枠組みである『ダイヤモンド・ヘキサゴン』の目玉プロジェクトだ。

トランプ政権とのディールには沈黙を守ったまま、ASEANで存在感を示す中国の動きをドナルド・トランプ大統領が快く思うはずもなく、トランプは早速「米国に損害を与える戦略を考案するためのもの」(『フォーチュン』誌4月15日)とけん制した。

もちろん東南アジアの国々がアメリカとの対立を望むはずもなく、相互関税の発動が90日間延期されるなかで、各国は交渉による解決の道を探っている。

だが、彼らの本音はアンワルが語った以下の言葉に代表されるのではないだろうか。

アンワルは「今日私たちが目撃しているのは欠点のあるグローバル化がもたらす当然の代償ではない。部族主義に陥った経済だ。市場参入権は武器として扱われ、ともに成長するために交わされた多国間の取り決めが恣意的な破壊や一つの国の気まぐれの前に屈している」と、世界経済の不安定が「人災」であると指摘したのだ。

実際、トランプ関税がアメリカ経済に追い風を吹かせるとの見通しを示した専門家はアメリカにも少ない。経済学者のポール・クルーグマンは「完全に狂っている」とSNSで発信し、ジャネット・イエレン前財務長官は「自分の見たなかで『最も深刻な自傷行為』」と批判している。

しかもトランプ政権の関税政策は債券市場の混乱を前に朝令暮改が続き、先行き不透明感を世界にばら撒いている。

多少の規模の縮小があっても安定的で先の見通せる関係をきちんと構築したい。中国とASEANがそうした考えに傾いたとしても不思議ではないはずだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年4月20日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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