「上納」や「接待」に利用される女子アナたち。海外では通用せぬ日本独自の文化がもたらした“フジ中居問題”

 

各自の職務範囲が曖昧な日本の企業社会

フジ・中居問題についての第三者委員会の報告書は「業務の延長線上における性暴力」と認定したように、日本のテレビ業界特有の権力構造は明らかに問題であるが、しかしそれはテレビ業界に限ったことではなない。

今回の問題のような女性アナウンサーや社員が本来の業務とは無関係な接待や会合に動員される慣行は、職務の境界が曖昧だからこそ起こりやすい。

日本の企業社会では、各自の職務範囲が曖昧であるため、上司から担当外の業務を頼まれても断りにくい雰囲気が根付いている。多くの場合、「それは自分の仕事ではありません」と明言することは協調性の欠如と受け取られる。

日本の職場ではジョブディスクリプション(職務記述書)が存在しないか、あっても曖昧なことが多く、社員は状況に応じてさまざまな業務を柔軟に引き受けることが期待されている(*2)。

一方、アメリカなどジョブ型雇用が一般的な国では、職務記述書によって個人の役割と責任範囲が明確に定められている。

上司であっても部下の職務範囲を超える業務を依頼することは原則としてできず、部下も「それは自分の担当外です」と明確に断ることができる。職務記述書に記載のない業務を行っても評価されるとは限らず、他人の業務範囲に踏み込むことも慎重になる。

過度な接待を厳格に規制し違反時には重い刑事罰が科される欧米

日本の接待文化についても触れなければならない。実際、接待はビジネスやメディア業界において、「関係構築」の名のもとに根強く存在してきた。

特に、フジテレビと中居正広氏をめぐる一連の問題では、女性アナウンサーや社員がタレントや取引先との会合に同席を求められ、時には「上納」や「接待」の一環として利用される構造が浮き彫りとなった。

このような慣行は、業務の延長線上での飲食や会合が「普通」とされる日本特有の文化的背景に支えられている。しかし、この背景が現代のビジネス慣行において問題視されることも多くなってきた。

他方、こうした文化は、欧米諸国の厳格な接待規制と対照的であり、不透明な接待が「腐敗の温床」とみなされる欧米の規制環境とは大きな差異がある。

欧米では、官民問わず不透明な接待が「腐敗の温床」とみなされ、法的規制が徹底されている。アメリカの「海外腐敗行為防止法(FCPA)」や、イギリスの「贈収賄防止法(Bribery Act 2010)」などの法律は、贈収賄や過度な接待を厳格に規制し、違反時には重い刑事罰が科される(*3)。

これらの法律は、公務員だけでなく、民間企業間の取引にも適用され、過度な接待や金品の授受が不正な利益供与とみなされるリスクが高い。

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