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狂人トランプに見切りをつけた習近平。“一帯一路”と“内部循環”で中国が加速させる「脱アメリカ」

トランプ大統領の追加関税という「脅し」に対して、一歩も引かない姿勢を見せ続けた習近平国家主席。結果的に双方が115%の引き下げで合意となりましたが、中国の「脱アメリカ」の流れは加速の一途をたどるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、そう判断せざるを得ない中国サイドのさまざまな動きを紹介し各々について詳しく解説。その上で、習近平政権の「先見性」を高く評価しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:内部大循環と「一帯一路」で、中国は「脱アメリカ」を加速させるのか

一帯一路と内部大循環。中国が着々と進める「脱アメリカ」のための外交と内政

中国は内部大循環と「一帯一路」で「脱アメリカ」を加速させる──。

こんな表現をすれば違和感を持つ読者は少なくない。そんな実力があるのか、と。しかし望んだのは中国ではない。習近平政権はアメリカの仕掛けるデカップリングに反対しながら、警戒し、ずっと備えてきた。そして中国は「有言実行」の国だ。

しかも、ブレない。

実例は身近なところにある。米中貿易戦争でのトランプ政権との応酬だ。この間、中国の言っていること(主に不満の表明だが)も、やっていることもほとんど変わっていない。

決まり切った表現をひたすら繰り返す彼らのスタイルは研究者泣かせだ。面白くもなければ、正直、倦んでしまう。

米中関税戦争もその一例だ。

トランプ政権が相互関税を発表して以降の米中の反目から、スイスでの閣僚級協議を経て、米中はともに発動した関税を115%引き下げた。その過程においても中国の主張と態度は一貫していた。

水面下でどんな話し合いがされたのかは不明だが、少なくとも表面上、中国側が妥協した形跡はない。

見えてくるのはトランプ政権が勝手に対中関税を引き上げ、それをまた自ら引き下げるという独り相撲の実態だ。

理由は簡単だ。目玉政策の一つと勢い込んで発動した関税が、あまりに大きな混乱を引き起こしたからだ。

このメルマガでも触れたように、株価の暴落や債券市場の乱高下。さらに流通・小売り業者からも一斉に悲鳴が上がったことで、政権を不安に陥れたのだ。

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アメリカ経済にとって死活的に重要なクリスマス商戦では、モノ不足が深刻化するとの予想まで広がった。

前回の原稿では、こうしたアメリカ国内の混乱に加えて、今後は中国で本格的な「脱アメリカ」が進んでしまうかもしれないとの懸念も伝えた。

【関連】トランプの所業を見れば一目瞭然。米中対立の記事から習近平の「ズルさ」や「危険」を伝えるフレーズが消えた理由

トランプ政権が発した145%の関税は、「実質的な禁輸を意味する」(ベッセント財務長官)ほどのインパクトを中国側に与えた。そのため、中国の輸出業者はアメリカ以外の輸出市場の拡大と国内需要の開拓に奔走することになった。一旦味わった彼らの焦燥は、たとえ米中が関税を互いに引き下げたとしても、簡単に消えることはないだろう。

なかでも国内需要の掘り起こしは、まさに中国共産党の指導層が繰り返してきた「外部からの衝撃による困難と試練に、国内大循環の強化で対応する」という呼びかけの実践でもある。

そもそも双循環は、輸出に頼り過ぎた経済体質の改善を目指したもので、「脱アメリカ」との相性も良い。

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西側先進国にはもはや期待できない力強い成長

興味深いのは、5月15日、「内部大循環の強化促進工作会議」に出席した李強首相の発言だ。

李はここで、「内部循環が可能であることは大国経済が備え持つ優位性だ」との認識を示している。これは言い換えれば、中国は国内だけで完結することのできる経済体だと言ったに等しい。

中国の外需依存、とりわけ対西側先進国への依存は、サステナブルではない。

関税の発動という政治的なリスクもそうだが、西側先進国にはもはや力強い成長は期待できないからだ。

4月15日、イギリスは2025年の第1四半期のGDP成長率を発表した。

英BBCはこの結果を「予想外の強い数字」と積極的に評価したが、その成長率は0.7%でしかない。

BBCは「G7先進7カ国のなかではおそらく最も高い数字」と評価。スターマー政権にとっても心強い発表となった。しかし、それは新興国や発展途上国ほど力強い成長ではない。

今後、大きな成長が期待される東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ、中東やアフリカの国々、いわゆるグローバルサウスの潜在力に中国が重心を移しているのは、むしろ自然な選択だ。

中国の期待する経済の「双循環」を実現するためには「安定した外の循環」が不可欠だ。その外の循環における軸足は、関税という制裁がなくとも、いずれは欧米からシフトせざるを得なかったのだ。

それにしても双循環という政策が、こうした事態を見込んで準備されてきたとすれば、驚くべき先見性と言わざるを得ない。

スイスにおける米中協議が進められる以前から中国は活発な外交を仕掛けてきた。習近平国家主席がロシアや東南アジアを訪問し、帰国後は中南米諸国の外相を北京に集めて大きな会議を開く、といったように新興国、発展途上国との交流に余念がない。

北京で開催された中国とラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)との閣僚級会合を報じた日本メディアは、「アメリカの裏庭に触手」(毎日新聞)と中国の意図を伝えたが、そんな短期的な発想だろうか。

アメリカけん制を目的とした短絡的な動きではなく、むしろ中国の発展を長期的に担保するための備えだ。第一、このフォーラムは昨日今日始まったものではなく、2014年から続けてきたものだ。

そして今回、コロンビアが新たに「一帯一路」に参加すると表明したことの裏側には、中国の地道な働きかけが連想されるのだ。

着々と前に進んでいるのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月18日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: bella1105 / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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