安価な労働力を求め工場を次々に移転してきた世界の企業
そして問題は、先に指摘した「原産地偽装」という表現だ。
中国の原産地偽装というニュースは韓国でも度々報じられるが、基本的にはラベルを張り替えるなど犯罪だ。数量的にも決して大きくない。よって二国間関係に影を落とすような話ではなく、ましてや、この見出しが匂わせるように通常の貿易と混同してよい話でもない。
中国企業がトランプ関税を回避するため東南アジアやメキシコに生産拠点を移転し、それが移転先国の対米輸出を高めたことはよく知られている。
ただ関税などに合わせて生産拠点を移動させることは、むしろ業界の常識だ。
例えば、かつての「北米自由貿易協定(NAFTA)」を「USMCA」に進化させた米国、メキシコ、カナダの3カ国の関係を利用し、日本は自動車産業を筆頭にサプライチェーンを構築してきた。その背景には「安い関税を求める」企業の動機があるが、工場の移転はカナダやメキシコにも利益をもたらした。
そもそも世界のメーカーは、安価な労働力を求めて工場を次々に新興国や発展途上国に移転してきた。
典型例は日本のメーカーが生産拠点を中国に移した動きだ。日本は基幹となる技術をともなう中間財を中国に輸出し、そこで組み立てられた製品を最終消費地へと向かわせてきた。
ここに貿易自由化の波が重なり、労働コストと関税を考慮して最も適した国を選び生産拠点を移してきたのだ。
その結果、かつては貿易摩擦を抱え、アメリカとの関係に苦しんだ日本は、その圧力から脱したのである。
日米貿易摩擦は米中貿易摩擦となり、いま、トランプ政権がベトナムなど東南アジアに警戒の目を向け始めているのも同じ文脈で理解できる。
そもそも「原産地偽装」という言葉は、こうした大きな流れとは区別して使われなければならない。貿易赤字問題でターゲットになるような物品の移動は、単純な工程で生産されるわけではない。
例えば、アップルの生産するiPhoneだ。iPhoneはアメリカの企業が設計し、中国やインドで生産されてアメリカへと向かうが、その途中では半導体を含めて膨大な部品と手が加わっていて、複雑だ。
もし原産地偽装が犯罪を指すのであれば、それは外交問題ではない。警察が粛々と対応すればよいだけの話だ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月25日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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