韓国大統領選挙で李在明氏が当選したことを受け、北朝鮮は従来とは異なる「冷静な対応」を見せました。なぜ、今回に限って沈黙を貫いたのか、メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、國學院大學栃木短期大学の兼任講師である宮塚寿美子さんが過去の選挙報道の傾向を振り返りつつ、韓国と北朝鮮の「今後の行方」を読み解いています。
北朝鮮、韓国大統領選挙を静観
今回は当選者が革新系か保守系かについては触れず、これまでのように時間を置いて報道した。
北朝鮮の朝鮮中央通信は2025年6月5日、同月3日に投開票が行われた韓国大統領選について「共に民主党候補の李在明が21代大統領に当選した」と報じた。同通信は今回の大統領選が、昨年2024年12月3日に非常戒厳を出した大統領が弾劾されたことによるものだと伝えたが、論評はせず、事実関係だけを短く伝えた。東京の朝鮮通信によると、朝鮮労働党機関紙の労働新聞も5日付で同じ記事を掲載した。
北朝鮮が今回の韓国大統領選について言及したのは初めてである。過去の大統領選の過程では韓国の大統領選と政治を非難する表現が北朝鮮メディアに登場していたが、2023年末から北朝鮮が南北関係を「敵対的な二つの国家」と位置付けているため今回の選挙について言及を控えていたとみられる。
過去の報道をみてみると、北朝鮮は李明博元大統領が当選した2007年の大統領選当時は1週間後に李氏の当選を報じた。朴槿恵元大統領が当選した2012年の大統領選のときは朴氏の名前を省略し「セヌリ党(現・国民の力)候補が僅差で当選した」と報じた。
文在寅元大統領が勝利した2017年の大統領選当時は、選挙2日後に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)機関紙の朝鮮新報が、その翌日に朝鮮中央通信が文氏の当選を伝えた。
そして、2022年の大統領選のときは2日後に「保守野党の国民の力の尹錫悦が当選した」と報じた。 北朝鮮にとって気に入らない保守系候補が当選したときは報道に消極的な傾向があったが、今回は当選者が革新系か保守系かについては触れず、これまでのように時間を置いて報道した。
今回当選した李在明大統領であるが、筆者が先月ソウルで見た保守派の大規模デモの展示物の中に、李大統領が2000年代に訪朝していることを証明するものがあった。”彼だけは絶対にだめだ”と言っていた保守派、候補者選びを最初から一本化できずに失敗に終わった。
いずれにせよ、北朝鮮は相手の出方を常に静観し、先に行動に動くことはあまりしない。李大統領は朝鮮半島の緊張緩和を公約にしていたが、果たしてどうなることか。日米韓の連帯はどうなるか。まずは静観しよう。
國學院大學栃木短期大学 兼任講師 宮塚寿美子
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