トランプ関税で不動産不況に。中国よりヤバいアメリカが住宅問題解消に必要なのは「関税戦争からの名誉ある撤退」

 

明らかに苛立ってはいるが焦ってはいない中国

トランプは前述のように「中国側が合意に違反した」とSNSで発信したが、習近平の認識はこれとは真逆だ。

「中国人は一貫して『一度言ったことは必ず実行し、実行する以上は必ずやり遂げる』ことを重んじている。合意に達した以上、双方はそれを順守すべきだ。ジュネーブ会談の後、中国側は合意を厳粛かつ真剣に履行している」と述べたという。

中国は明らかに苛立っている。ただ、だからといって中国が焦っているととらえるのは誤りだ。

理由は中国の国内が比較的落ち着いているからだ。それに反しアメリカ国内の政治の混迷は深刻だ。

先週も取り上げた「恩赦」の問題をめぐって大きな批判にさらされ続けるトランプ政権は、関税発動の権限をめぐっては司法との間に緊張関係を生じさせた。

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加えて大統領自身が「大きくて美しい法案」と呼んだ税制・歳出法案をめぐり、かつての盟友で大富豪のイーロン・マスク氏と激しい舌戦を繰り広げた。

マスクの不満は、「この法案が政府の債務をさらに膨らませ政府効率化省(DOGE)の仕事を台無しにする」こととされたが、実際、5月29日に放送されたABC『ワールドニューストゥナイト』では、議会予算局の試算でとして「今後10年間で、政府債務は3.8兆ドルまで膨らむ」との予測も紹介された。

関税をめぐる米中対立では、すでにこのメルマガで予告したアメリカ経済への逆風の兆候がいくつも確認され始めた。

6月4日放送の米ABCテレビは、「ウォールマートで商品の値上がりが始まった」として、「3月には34ドル97セントだった赤ちゃんの着せ替え人形が、現在は49ドル97セントになり、お絵描きボードも5月時点で14ドル97セントだったのが、現在は24ドル99セントに値上げされた」と報じた。

ここ数年、日本では中国の不動産不況から中国経済の不振が連日のように取り上げられてきたが、住宅問題はアメリカでこそ深刻だ。

アメリカ公共放送PBSの『ニュースアワー』は6月4日、住宅問題に取り組むために超党派での対策が進んでいることを、二人のゲストを招いて紹介した。

番組の冒頭、キャスターが「ホームレスの人の数が過去最高に達するなかトランプ政権は賃貸住宅の家賃補助を削減しようとしている」と懸念を示すと、番組に出演したユタ州クリアフィールドのM・シェパード市長は、「いま全国でおよそ400万戸の住宅が不足している」と応じた。

住宅問題に超党派で取り組む彼らが目指すのは安価な住宅を提供することだが、もしトランプ関税が固定化されれば、「それによって、すでに高い建設コストがさらに上がる」(カリフォルニア州ロングビーチのR・リチャードソン市長)ことが懸念されるという。

住宅建設の費用がかさめば家は売れない。家が売れなければ消費は停滞する。

経済再生を期待されたトランプはそれでよいのだろうか。

関税戦争でも、やはりアメリカは「名誉ある撤退」が必要なのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年6月8日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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