イスラエルとイランの戦争で利益を得る者たち。「逮捕に怯える外国スパイ」ネタニヤフと「平和になったら困る」イスラム宗教保守の戦いに終わりはあるのか?

 

イランも重度の戦争病。「イスラエルという敵」がいなければ内部崩壊する

さて、一方のイランですが、どうして核兵器の開発を進めているのかというと、これも全く別の政治的動機があります。イランは、1978年から79年にかけて発生した「イラン革命」によって、王制を廃止してイスラム共和国、つまり宗教国家に変わりました。

当時はまるで、腐敗してアメリカと結託したパーレビ国王は悪であり、パリに亡命していたホメイニ師は善であるかのような報道もされていましたが、そんな単純な話ではありませんでした。

革命当初から、イランの中には主として3つのグループがありました。1つは、宗教革命を強く推し進めてイスラム法に厳格な生活様式を徹底したいという宗教勢力、2つ目は当時はアメリカに対抗して中東への浸透を企図していたソ連と連携しようという社会主義勢力、そして3つ目は近代的なライフスタイルをある程度守ろうとする改革派でした。

やがて、2番目の社会主義勢力は消えてなくなり、宗教勢力と改革派が対立するようになりました。近年は、特に女性のヒジャブ着用強制などを巡って、この両者は激しく対立していたのです。宗教勢力は改革派を「外国勢力からの工作」だと非難して弾圧し続けていますが、公正な選挙を行うと改革派の大統領が勝つという状況が続いています。

ホメイニ、ハメネイと続いた宗教指導者が国家の最高指導者となって、絶対的な権力を行使してきた歴史があるのですが、この女性の人権問題は、場合によっては国家の分断、あるいは宗教共和国の崩壊につながる可能性も持っています。

一方で、核開発ですが、これは革命以前からイランでは研究されていたことでした。理由は単純で、豊富な埋蔵量を誇っていたイランの石油が枯渇することを恐れて、原発など代替エネルギーを確保しておこうという国策が原点でした。

いずれにしても、国内に深刻な対立を抱えるイランは、どうしても「団結のためには敵が必要」だったのです。敵としては、革命当初は「クルド人の分断勢力(独立派)」が徹底的に攻撃されて弾圧されました。やがてイラン=イラク戦争でのイラクとの対立を経て、その後は「イスラエルを認めないというアラブの大義」を強く押し出すようになります。

これは実はおかしな話です。イスラエルに奪われたパレスチナを取り返すというのは、確かに一時代のアラブ世界にとっての「大義」でした。ですが、イランとは元来がペルシャであり、ペルシャ語圏ですからアラブではないのです。また、イスラエルとイランの間には、国境はありません。直接国境を接していないし、イラクのように領土紛争が起きる可能性もないのです。

そうなのですが、イランの宗教勢力にとっては、自分たちが中東の中で少数派のペルシャ文化圏であり、同時に少数派であるシーア派を宗教とする中で、自分たちが中東のそしてイスラムの「盟主」でありたいのです。ですから、そのためには、どうしてもイスラエルとの紛争の前面に立ちたいという心理に縛られてしまうのでした。(次ページに続く)

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