戦争を終わらせるには「ネタニヤフ逮捕」と「イラン国内の改革」が同時に必要
一連の動き、つまりハマスの対イスラエルのテロ、ネタニヤフの報復、そして今回のネタニヤフのイラン攻撃という流れは、他でもないサウジのムハンマド皇太子とイスラエル穏健派による「中東の平和、脱石油ハイテク」という構想を潰すために動いているわけです。ハマスも平和になれば求心力を失います。ましてイスラエルがテクノロジーでさらに経済成長するようですと、共通通貨が高騰して生活が成り立ちません。
ネタニヤフは、自分たちの利害を守るためには戦争を継続する必要があると考えられます。イランの宗教指導者は、仮にサウジが脱石油経済に成功すると、より埋蔵量の枯渇が迫っているイラン国内でも改革要求が激しくなるわけで、これは大変に困るわけです。
そんな中で、もしもトランプ大統領の娘婿であるクシュナー氏が強く働きかけて、トランプ氏本人がこの戦略に強く乗っているのなら、話はかなり変わってきます。トランプ氏には和平仲介の動機があるということになります。
反対に、イスラエルとしては、アメリカがバックにいて自分たちの「安全を守る行動」を支持して欲しいと思っているでしょう。これに対して、イランは宗教指導者の求心力を高めるためには、アメリカがイスラエルと結託して自分たちを攻撃してきているというストーリーが欲しいはずです。
そうした中で、支持者の中に強い厭戦主義と孤立主義を優先し、女婿が強く工作しているムハンマドの平和な中東を支援するのであれば、それがトランプ政権にとって和平を進める動機となるし、成功すれば支持率は高まるかもしれません。反対に、イランが必至の工作をして、例えばカタールやクエイトなどで米軍に危害を加えるようなことがあったとすれば、「弱いイメージ」を嫌うトランプ政権としては喧嘩を買ってしまう危険性もあります。
そんな中で、カナダのカナナスキスでG7サミットが開催されています。トランプ氏については、7年前に同じカナダのシャルルボアで、G7の結束を「緩めよう」として、故安倍晋三氏に強く止められたことが想起されます。それはともかく、今回はより徹底したトランプ主義を実施する中では、G7の結束は難しいと思われていました。
ですが、そこでG7がトランプ氏を中心に結束して、イスラエルとイランを和平に導くような具体的な政治的圧力醸成に成功すれば話は変わってきます。一方で、このG7に圧力を加えようというのか、ロシアのプーチンも和平仲介を提案してきたようです。せっかく原油の高値誘導ができたにもかかわらず、和平を仲介しようというのには、G7の結束を潰して、欧州に対して政治的に優位に立とうという計算が感じられます。
ですが、そのような格好でプーチンが出てくることによって、トランプ氏には反対にG7をまとめて、イランとの核協議の再開、イコール和平という調整に乗り出す動機がさらに加わることにもなります。
イスラエルはイランを政権交代に追い込むと息巻いていますが、そのような形で改革派が勝っても、誇り高いペルシャ文化圏の人々が良い形で体制を形成できるかは分かりません。いずれにしても、イスラエルでは民意の過半を反映していない現政権には下野してもらい、もしも汚職が事実ならしっかり裁きを受けるべきです。一方のイランは、とりあえず新しい核合意の交渉に臨みつつ、自分たちで世代交代と改革へと歩みを進めることが必要です。
その意味で、現在の事態を大きな歴史の転換点にする必要があり、そのためにも互いの主要都市に対して、無謀なミサイル攻撃を繰り返すのは、即刻停止してもらわねばなりません。まずは、G7が和平仲介へ向けて動きを見せることができるかが問われています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年6月17日号「中東紛争のメカニズムを考える」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「米価とは単純な方程式だという件」「電話嫌いの若者を叱るなという件」や人気連載「フラッシュバック80」、読者Q&Aコーナーもすぐに読めます。
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