イスラエルとイランの戦争で利益を得る者たち。「逮捕に怯える外国スパイ」ネタニヤフと「平和になったら困る」イスラム宗教保守の戦いに終わりはあるのか?

 

イスラエル、イラン、ハマスにすら存在する「平和は困る」者たちの正体

この点でイランがライバル視しているのがサウジアラビアです。メッカ、メジナというイスラムの聖地を抱え、イスラムの盟主を自負するサウジが、テクノロジーや金融を中心とした「脱石油ビジネス」においてイスラエルと連携しようとしています。イランは、これを敵視し、サウジを憎みつつ、イスラエルへの憎悪を国家の団結の軸にしようとしてきました。

手段としては、ガザのハマス、レバノンのヒズボラを支援して「対イスラエルの代理戦争」を仕掛けることが続きました。ですが、この間の紛争により、ハマスもヒズボラも戦闘能力を喪失するに至りました。

となれば、イランとしてはイスラエルと直接敵対するしかないわけです。

そこでイスラエルとしては、「やられる前に叩く」という定石通りに動いたわけです。問題はイランの核開発ですが、お話したように当初は原油枯渇に備えた平和利用が目的でした。ですが、イスラエルを敵視していること、そのイスラエルが実は核武装していることを前提に、核兵器開発へと動いているのは事実です。そして、事あるごとにイランはイスラエルを敵視する発言を繰り返してきました。

勿論、勝手な核兵器開発は国際法違反であり、欧州が特に懸念を持つ中で、経済制裁が続いてきましたが、米国のオバマ政権が主導して2015年に「核合意」に漕ぎ着けました。

ですが、トランプ政権はこれを否定して核合意の枠組みは壊れています。そんな中で、核兵器の開発は相当に進んだようだ、ならば防衛のために先手を打つというのがイスラエルの立場です。

非常に単純化すれば、イスラエルのネタニヤフ政権は、戦争をエスカレートさせないと議会が解散され、下野するとなれば逮捕されてしまいます。一方で、イランの場合は改革派と宗教保守派の対立から国が瓦解しないためには敵を作るしかありません。このような不幸な構図が今回の一件の根本原因だと考えられます。

もう一つ加えるのであれば、サウジとイスラエルによる「脱石油経済」構築の試みが成功してしまうと、イスラエル国内では穏健派が勝利します。ハイテクと高付加価値な観光業、食品加工業による繁栄には平和が必要だからです。ですから、戦争に訴えて権力を維持したい勢力、つまり現政権と軍部という「平和は困る」という側は危機感を持つわけです。

また、サウジとイスラエルによる「脱石油経済」が成功してしまうと、その成功事例に触発されてイランの若い世代は、より徹底した改革を要求します。そうなると、長老による宗教保守派の支配が動揺してしまいます。

さらに言えば、この「高度な脱石油経済による平和」は、ガザのハマスなど「戦争によるカネと権力の維持」をする勢力にも危機感を喚起しました。大量の人質を拉致するという悪質なテロを行ってハマスがイスラエルを挑発をした背景には、このような切迫した危機感があったと考えられます。(次ページに続く)

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