「イスラエルとサウジによる平和なハイテク社会」の仕掛け人はトランプの娘婿
事態の今後を左右するのは和平仲介ですが、まず強い動機があるのはヨーロッパ各国です。例えばフランスは多くのアルジェリア系人口を、ドイツはトルコ系、英国はパキスタン、バングラ系など、イスラム系の移民人口を抱えています。そんな中で、移民と排外的な住民が対立すると、各国の国内が荒れてしまいます。
それ以前の問題として、選挙で勝っていくには移民の票も必要ですが、だからといって過度にイスラム贔屓をするわけにも行きません。そんな欧州、特に西欧にとっては中東の平和というのは、非常に切迫した問題です。ですから、仲介の動機はあるのですが、いかんせん過去の実績もないし、国際社会における政治力も足りません。
そこで重要になってくるのがアメリカです。アメリカのトランプ政権は、この問題、特にイランに対しては大変に複雑な要素を抱えています。3つの問題があると言ってもいいでしょう。
1つは、イラン革命以来のイランとの敵対意識です。大使館の人質事件、カーターによる人質奪還工作の失敗、レーガンの人質奪還とそのダーティなウラの金の流れなど、イランとの関係は非常にギクシャクしたものがあります。また、イランの側は、パーレビ国王時代に米国に利用されたこと、そのパーレビを訴追しようとしたのを米国が妨害したことなど、恨みが重なっています。
イラクを後援して代理戦争を仕掛けたことへの恨みは、そのイラクと仲違いした結果、スンニー派政権が壊れて、結果的にイランのイラクへの影響力が増したのでチャラかもしれません。ですが、革命イランにとって、米国は仮想敵であり、これを意識することで、米国もイランと政治的、軍事的に敵対する構えを取っています。そして、その敵対意識については、911と反テロ戦争でイスラム圏と敵対したことで、共和党側により強硬姿勢があります。
一方で民主党の側には、例えばコソボやソマリアを助けようとしたクリントンや、アラブの春を曖昧ながら後援しようとしたオバマなど、対イスラム圏への憎悪の量は少ないものがあります。ですから、カーターの一件はあっても、イラン問題についてはできるだけ穏便にという基本姿勢があります。ただ、バイデン政権は、少しでも「弱腰」になるとトランプ派に「つけ込まれる」という危機感から、イランに対してはかなり辛口でした。
2つ目として、トランプ政権は「強いアメリカ」を志向しているので、例えば軍事パレードを行ったように好戦的というイメージがあります。ですが、その裏には非常に本質的な「非介入主義」というものがあります。ブッシュとは同じ共和党政権ですが、本質的に全く異なります。
つまり、現在の米国はとにかく、欧州や中東のトラブルに関与しない、そうしたトラブルを持ち込ませないという姿勢です。究極の孤立主義ですし、これに「軍産共同体には騙されない」というような一種のアナーキーな反戦主義も重なっています。トランプ大統領が、ウクライナやガザの紛争を「自分が終わらせる」と言い続けてきたのは、この特殊な反戦主義、厭戦主義があると考えられます。
やや極端ですが、戦争の英雄などの「エリート」に対して冷笑的という態度もありますが、とにかくブッシュの戦争にはほぼ全面的に反対しており、中東におけるトラブルには、カネも兵力も使いたくないのです。この特殊な保守主義は、第1の「革命イランとの敵対の度合いは共和党のほうが強い」という問題と、矛盾しつつ共存しているのです。
トランプ政権の3番目の問題は、実は「イスラエルとサウジによる平和なハイテク社会」というのはトランプ家、具体的には女婿のジャレド・クシュナー氏がウラのフィクサーとして推進しているという点があります。例えば、ついこの4月にもトランプ大統領はサウジなど中東の友好国に出張して関係をアピールしていましたが、その目的は石油を買うことではなく、また中東の喧嘩を買うためでもありません。
どちらかと言えば、中東の平和による「脱石油のハイテク社会」にカネの匂いを感じて、そのスポンサーをしたいという思惑があるのです。御大自身には、どの程度の温度感があるのかは正確には分かりませんが、明らかにサウジのムハンマド皇太子は盟友であり、そのムハンマド皇太子こそ、この「脱石油のハイテク」の仕掛け人ということもあります。(次ページに続く)









