イスラエルとイランの戦争で利益を得る者たち。「逮捕に怯える外国スパイ」ネタニヤフと「平和になったら困る」イスラム宗教保守の戦いに終わりはあるのか?

Tel,Aviv,,Israel.,August,14,,2019.,Prime,Minister,Of,Israel
 

核戦争にすら発展しかねないイスラエルとイランの軍事衝突に対し、国際的な懸念が高まっている。これに関して、「イスラエルのネタニヤフ首相は、軍事衝突をエスカレートさせなければ議会を解散され、下野すれば逮捕されてしまう」一方で、「イランのイスラム保守政権も、イスラエルという敵がいなくなれば改革派の突き上げで国が瓦解してしまう」という構図を指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。「平和になったら困る」人間はイスラエルだけでなくイランやハマスにすら存在し、それぞれが自身の延命や保身のために戦争を利用しているという。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:中東紛争のメカニズムを考える

多くの日本人が理解できない、イスラエルとイランが衝突する本当の理由

イスラエルのイランに対する攻撃は、その規模が大きく、また全体的に相当な決意を込めた行動という印象を与えました。このために、イランとしては同様に相当程度の反撃を決意せざるを得ず、即座に規模の大きな反撃を行っています。反撃には反撃で応えるということで、相互の応酬が止まりません。

現状としては、とにかく事態は悪化の一途を辿っています。イスラエルの側は、当初のイラン軍幹部や核科学者の暗殺というピンポイント作戦にとどまらず、油井への攻撃を含むインフラ破壊も開始しています。

一方で、イラン側の攻撃はイスラエルの事実上の首都であるテルアビブだけでなく、複数の都市に対する攻撃へと拡大しています。特にイスラエル自慢の迎撃システム(アイアン・ドーム)の能力を超える飽和攻撃も試みており、被害が拡大しています。

例えばですが、この間に続いたイスラエル=ガザ戦争との比較で言えば、ガザの場合は背後にイランがスポンサーでいたわけですが、今回のイランによる攻撃はより規模が大きくなっているようです。ガザが使用していたミサイルより大型で射程が長く、搭載している爆弾も大きなものを飽和攻撃に使用しているので、迎撃漏れが起きた場合の被害は深刻になっています。

一方で、イランは領内の制空権を確保できておらず、イスラエルが新世代の戦闘機を使って侵入、攻撃、帰還を繰り返すのを阻止できていません。これに無人機や偽装トラックによる侵入などを組み合わせてくるので、被害を止められないようです。

戦争は被害の応酬であり、被害は自己正当化と憎悪の拡大をもたらします。その意味で、既に深刻な戦闘状態というのが両国内で発生しており、これを直ちに停止に持っていくのは難しい状況です。従って、解決策についての具体的な提言というのは、現時点では非常に難しいのが正直なところです。

今回は、従いましてこの紛争の原因と継続のメカニズムについて考察してみたいと思います。

政権維持のため戦争を欲するイスラエル。だがそれだけが原因ではない

まず、イスラエルの側ですが、現在のネタニヤフ政権は非常に難しい政権運営の綱渡りを続けています。ネタニヤフ政権といえば、民間人犠牲を躊躇しないように見えるガザへの激しい攻撃を遂行したことなどから、強硬派に見えます。ですが、イスラエル国会の勢力分布の中では、極右ではありません。もちろん保守ですので、中道や左派とは厳しく対立していますが、超保守派とも対立しています。

その対立点は2点あります。1つは、ネタニヤフ氏自身を含む政権中枢が汚職疑惑、具体的にはカタールなどの外国勢力からの収賄を疑われているということです。こちらはすでに検察が動いており、逮捕状も出ていますから、政権を降りた瞬間に逮捕される可能性があります。

もう1つは、宗教保守派の徴兵問題です。一口にユダヤ教といっても、狭義の厳格さという点でさまざまな濃淡があるのですが、中でも厳格な保守派というのは、戒律に対して厳格に従うというライフスタイルを持っています。彼らは、モーセの十戒の中にある「汝(なんじ)殺すことなかれ」に忠実ですので、兵役を忌避します。ですが、現政権はガザにおけるハマス、レバノンにおけるヒズボラとの戦争を継続する中で、この宗教保守派への徴兵をしようとしています。

これに対しては保守派と中道左派が連携して対抗しており、特にこの問題で議会を解散に追い込む構えです。これに対して、ネタニヤフ氏は解散イコール政権交代となる可能性が高く、その場合は自身が逮捕されるかもしれないので、絶対にこれは認められません。現在はガザの戦役が最終段階となり、緊急事態だから国会を開かないとか、解散できないといったロジックが使えなくなっています

そんな中で、野党連合は議会を解散に追い込むための法案を数段階用意しており、このままですと法案が一つずつ通り、その結果として解散になってしまいます。非常に複雑な動機ですが、ネタニヤフ政権には明白な戦争状態を作って、議会の活動を停止するという動機があったと考えられます。(次ページに続く)

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