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朝ドラ過去最低の視聴率『おむすび』だけじゃない。なぜ日本のテレビドラマの質はここまで落ちたのか?

アジア圏を始め、世界各国で人気を博したNHK連続テレビ小説『おしん』本放送から40年余り。同じ放送枠でオンエアされた『おむすび』が過去最低の平均視聴率に沈み、その悲惨な状況を伝える記事がネット上にあふれる事態となったのは記憶に新しいところです。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、同作に限らない「日本のドラマをつまらなくしている要因」を考察。数々のその構造的な問題を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:視聴率最低NHK朝ドラ『おむすび』が映す、日本型ドラマの構造的限界 脚本家一人にすべてを委ねる日本 複数脚本家チーム「ライターズルーム」のアメリカ 社会風刺なき日本のドラマ 背景に政治的中立を求める学校教育が

視聴率最低NHK朝ドラ『おむすび』だけにあらず。海外ドラマと比較しても分かる日本のドラマに深みがない原因

3月まで放送されたNHK連続テレビ小説『おむすび』が、関東地区で平均視聴率13.1%という過去最低の記録で幕を閉じた。

視聴率低迷の背景には、平成ギャル文化を主題に据えた設定と主要視聴者層との乖離、脚本や演出の構成力不足、さらには話題先行のキャスティングとのバランスの悪さなど、複数の要因が絡んでいるとされる。ただ実際には『おむすび』一作品に限られた課題ではなく、日本のテレビドラマ制作全体に潜む構造的な問題を映し出している。

かつて日本のドラマはアジアを中心に一定の国際的人気を誇ったが、現在では韓国や欧米のドラマに押され、存在感を徐々に失いつつある。その要因としては、ドラマ制作体制の硬直化、視聴者ニーズとの乖離、そしてキャスティングをめぐる慣行など、複雑な要素が絡んでいる(*1)。

なかでも問題なのが、若手俳優に偏ったキャスティングの風潮だ。日本の民放ドラマでは20代前半の俳優が主演を務める傾向が強く、30歳を超えると主役の機会が激減することから、「俳優26歳限界説」ともいわれる状況が続いている。

若手俳優が求められる理由は、スポンサーが若年層を重視し、話題性やビジュアルを優先するキャスティングを求める業界構造があるが、結果として経験ある中堅俳優の出番は限られ、作品も恋愛や青春ものに偏りがちになる状況が続く。

ストーリーもキャラ練り込みも浅薄。「一人脚本家体制」の限界

日本と海外のテレビドラマ制作体制を比較すると、日本のドラマ制作が抱える構造的課題が浮かび上がる。

アメリカでは、複数の脚本家が一緒に働き「ライターズルーム」と呼ばれるシステムのもと、脚本をつくることが一般的。ここでは、会議形式でアイデアを出し合いながらドラマやシリーズの脚本を共同で執筆する(*2)。

一方、日本では脚本は一人の作家が全話を担当するケースが多い。ただこの手法ではストーリーの練り込みやキャラクターの掘り下げに限界が生じやすく、内容の厚みに欠ける。近年になってNHKやTBSなどが海外型のライターズルーム方式を導入し始めているが(*3)、効果は乏しい。

また日本のドラマは1クール10~12話と短く、海外の長編シリーズと比べてエピソード数が少ないため、海外バイヤーにとって魅力が低い。制作費も日本のゴールデン・プライム帯ドラマは1話約3,000万~4,000万円だが、アメリカの人気ドラマは1話数億円と大きな差があり、映像や演出のクオリティにも格差が生じている。

このような制作システムの差は、国際市場における競争力にも影響。総務省のデータによれば、2021年度の日本のテレビ番組輸出額655.6億円のうち、ドラマはわずか36.1億円にとどまり、全体の約5%にすぎない(*4)。

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民放ドラマの質を落とす「俳優26歳限界説」という問題

日本の映像コンテンツ産業において、とくに民放ドラマにおける制作方針の一つとして、若手俳優中心のキャスティングが確立されている。具体的にいえば20代前半の俳優を主演に起用する傾向が顕著である(*5)(俳優26歳限界説)。

理由としては、スポンサー企業による若年層向け商品のマーケティング戦略および広告ターゲット層の設定が大きく影響しているという。

ただ、この若年層重視のキャスティング方針については、話題性やビジュアル、知名度を重視した人材選考により、演技の質・作品の芸術面が制限される可能性が指摘。加えて、若手俳優が技術を十分に確立する前に世代交代の対象となり、キャリア形成の機会を失うケースもあるという。

結果、日本の映像コンテンツは俳優層の多様性が限定され、結果として作品内容の均質化を招いている。

対照的に、海外市場では中堅・熟練俳優が主要な役割を担う事例が数多く存在し、その豊富な経験値が作品の質的向上をもたらしている。国内においても、NHKの連続テレビ小説やストリーミング配信作品では、幅広い年齢層の起用が進む。しかしながら、民間放送局のドラマ制作では依然として若手重視の方針が変わっていない。

ドラマの内容を浅くする教育現場とG7中最低の報道の自由度

日本のドラマが質的に伸び悩む背景には、制作体制やキャスティングの課題だけでなく、社会や文化に根差した構造的要因がある。

とくに地上波ドラマが政治や社会問題を深く扱わない傾向は顕著であり、多くの作品が恋愛、家族愛、刑事ものといった無難なテーマにとどまっている。背景には、政治や社会を語ることを避けがちな日本社会の空気と、視聴者側の関心の低さがある。

この傾向を生むのは、まさに教育現場だ。学校教育では「中立」の名のもとに政治的議論を避ける指導が行われ、批判的思考やディベートの機会が乏しい。こうした教育環境では、社会課題を深く考える素地が育ちにくく、制作者も視聴者もシリアスなテーマに慣れていないため、ドラマの内容が浅くなるという悪循環が生じる。

さらに、日本の報道の自由度はG7諸国中で最も低く、放送業界全体に自己検閲的な体質が根付いている。その影響はエンタメ分野にも及び、テレビドラマでも権力批判や社会風刺を描くことが難しい状況が続いている。

それでも近年では『御上先生』や『ホットスポット』のように、社会問題に踏み込む作品も登場し始めている。この潮流を広げるには、教育現場でのリベラルアーツの充実と、制作者自身の意識変革が不可欠だろう。

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引用・参考文献

(*1)田崎健太「日本のドラマがこの10年で急速につまらなくなった、本当の理由」現代ビジネス 2017年9月3日

(*2)小西未来「~日本とアメリカのドラマ制作の違い~【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~世界を席巻するアメリカのドラマ制作の強みとは?vol.1~」VR Digest plus 2018年9月26日

(*3)もりっち「ドラマ『キャスター』は完全オリジナル!脚本家6人の狙いと過去作を徹底解説」まったりエンタメ探検隊 2025年5月11日

(*4)総務省「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析(2021年度)」

(*5)「ジャニーズJr.22才定年の衝撃 芸能界に『年齢制限』はあるのか」NEWSポストセブン 2021年1月21日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年6月22日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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