かつては「半導体立国」と呼ばれ世界をリードしていたものの、今やすっかり台湾や韓国の後塵を拝する有り様となってしまった日本。その地位回復を目指し国を挙げての取り組みを進めている中にあって、思わぬ「事件」が露呈する事態となっています。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、台湾の最新半導体技術が窃取され、当局の捜査が日本企業にまで及ぶ可能性を報じたニュースを取り上げ解説。さらに主に中国による半導体の技術盗用に頭を悩ます台湾の現状を紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【台湾】TSMCの機密流出で元従業員を逮捕、日本企業も捜査対象か
日本企業も捜査対象か。TSMCの機密流出で逮捕された元従業員の転職先
● TSMCの半導体技術を不正取得か、台湾検察が元従業員ら3人の身柄拘束…日本企業に転職
現在、半導体製造において首位を走っているのは台湾です。それに続いて韓国、日本、アメリカ、ヨーロッパと続くとのことです。今や半導体は世界経済の要といっていいほどの存在感を示しており、各国がしのぎを削って半導体産業の主導権を握ろうと必死です。
アメリカのトランプ大統領は、台湾の半導体に高関税をかけると脅し、台湾はアメリカとの関税交渉の真っ最中です。そんな中、台湾の最先端半導体技術が盗まれたとの報道が走りました。詳しくは以下、報道を引用します。
台湾積体電路製造(TSMC)の従業員らが半導体の中核技術を不正に取得した疑いがあるとして、検察当局は5日、国家安全法違反の疑いで関係者3人の身柄を拘束したと発表した。
検察の発表によると、TSMCが従業員の不正アクセスを察知し、内部調査をしたところ、従業員と元従業員が営業秘密を不正に取得した疑いがあることが判明し、検察に告訴した。
台湾紙・自由時報(電子版)によると、元従業員は在職中、先端品の回路線幅2ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の技術の図面を研究開発部門のエンジニアにパソコン画面に表示させ、携帯電話のカメラで約1,000枚撮影した。TSMC関係者によると、元従業員は退職後、TSMCと協力関係にある日本企業に転職した。台湾メディアは、この企業も捜査対象になるとみている。
● TSMCの半導体技術を不正取得か、台湾検察が元従業員ら3人の身柄拘束…日本企業に転職
まず、盗まれた技術である2ナノ半導体ですが、この技術は台半導体製造における世界最先端技術であり、台湾が先行して量産を目指して開発しているものです。その技術を盗んだ元従業員たちは、「TSMCと協力関係にある日本企業」に転職したということです。この転職先は、他の報道を見ると「東京エレクトロン」という企業だそうです。
● TSMC機密取得で元従業員拘束、台湾当局が東エレク捜索 現地報道
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「日の丸半導体」企業にも盗用技術が流出か
そして、この企業は、どうやら日本政府が関わるプロジェクトに関係があるようです。それについて以下、報道を引用します。
現時点で2ナノ半導体の量産化技術では、TSMCが先行している。ライバルである韓国サムスン電子やインテルなども量産化を進めている最中だ。日本では国が2兆円支援する国策半導体企業・ラピダスが、2ナノ半導体の量産を目指している。
問題の発覚を受けて、この装置エンジニアは勤務先の外資企業を退職したが、TSMC従業員と同様に捜査対象となっているとしている。さらに同紙は同日付の別の記事で、東京エレクトロンの新竹サイエンスパークの拠点が検察当局の捜査対象となっていると報じている。
また政権与党・民進党系の大手紙・自由時報は同日の記事で、検察当局の他に国家安全会議も捜査に加わっているとし、「過去2カ月の間に7~8件の問題が捜査対象となっており、日本と韓国の装置メーカーが関与している」と報じている。
この記事では具体的な装置メーカーには言及していないものの、「日本のナショナルチームとしての新興企業が現在2ナノの量産準備を進めており、(捜査対象となっている)装置メーカーがこの新興企業の装置サプライヤーであるため、技術がこの企業に流出しているのかは業界で激しい議論の対象になっている」としている。
この新興企業とは、ラピダスを指しているとみられる。
一連の台湾報道について東京エレクトロンは、「台湾メディアで報じられている内容は会社として承知している」としたうえで、自社が台湾検察当局の捜査を受けているか否かについては「コメントしない」と回答した。
● 【台湾報道】TSMCから「最先端2ナノ」核心技術が装置メーカーに流出→元従業員3人を逮捕、東京エレクトロンも捜査対象に浮上
ラピダスというのは、ご存知の通り、「日の丸半導体」と呼ばれ、日本政府が「これまでラピダスに1兆8,000億円超を支援し、今年4月には同社を想定した政府出資を可能とする改正法も成立」させたほどに、資金を出し、国家事業として育て上げようとしている組織です。
ラピダスも、もちろん2ナノ半導体生産に向けて試作を続けています。
ラピダスは7月18日、北海道の新工場で試作した2ナノメートル(ナノは10億分の1)の微細半導体の動作確認に国内で初めて成功したと発表。同社の東哲郎会長は記者会見で、試作ラインの立ち上げからわずか3カ月程度での“快挙”を誇った。計算能力向上や消費電力削減に半導体の微細化は不可欠で、2ナノの量産化を実現した企業はまだない。
● 2030年に市場規模150兆円、「日の丸半導体」復活へ加速 トランプ関税の懸念も
そして、「政府は国内製造分の売上高を22年時点の6兆円から30年に15兆円超まで伸ばす方針」だということで。政府の本気度が分かるような数字です。しかし、この成功も目標も、台湾の技術が盗用されていたとなると話は別です。台湾当局にはしっかりと調査してもらいたいと思います。
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半導体主導権争いの過程で避けられぬ技術窃取や産業スパイ問題
半導体技術について、台湾は中国による技術窃取に常に頭を悩ませてきました。そのため、台湾政府は国家安全法で技術窃取について法制化することで技術を守って来ました。中国も2030年までには半導体の生産能力を大幅にアップさせる計画を立てています。中国の半導体に関する動きについて、以下、報道を一部引用します。
市場調査会社Yole Groupによると、中国は2030年までに世界の半導体ファウンドリ(受託製造)生産能力の30%を占め、世界最大のファウンドリ拠点になる見通しだ。現在の首位は台湾(23%)、以下は韓国(19%)、日本(13%)、アメリカ(10%)、ヨーロッパ(8%)と続く。中国のシェアは現在の21%から大きく増加することになる。
この変化の主な要因は、中国政府が主導する半導体製造分野への積極的な国内投資であり、自国でのチップ製造の自立を目指す国家的目標に支えられている。
2024年には、中国の半導体月間生産量は885万枚に達し、前年比で15%増加した。2025年には1,010万枚に達する見込みだ。この成長の中心には、華虹半導体(Huahong Semiconductor)による無錫の12インチ新工場を含む18の新しい半導体工場の建設がある。こうした生産能力の拡大は、中国が世界の半導体市場で支配的な地位を目指す上で不可欠だ。
● 中国、2030年までに世界最大の半導体ファウンドリ拠点に
今や世界各国が国を挙げて参戦している半導体産業でのシェア争いですが、その過程で技術窃取や産業スパイといった問題も避けることはできません。先だって台湾で行われた国会議員のリコール承認選挙が行われた発端には、国民党議員が中国のスパイではないかとの疑念もありました。台湾には毎日のようにサイバー攻撃があるとも報じられています。
国家の命運を握っているとも言える半導体産業をめぐる世界各国による競争は、これからはさらに激化していくと思われますが、願わくば各国は技術窃取など、卑怯な手段で勝とうとせずフェアに戦ってほしいものです。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2025年8月6日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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- 中国によるAIでのSNS世論操作の脅威/TSMCの機密流出で元従業員を逮捕、日本企業も捜査対象か(8/6)
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