“カネの亡者”に信じ込まされた幻想。「核兵器の存在が世界平和を維持させる」という核抑止論の大ウソ

 

トランプが生んだ混乱を巧みに利用するプーチンと習近平

大の戦争嫌いまたは関心がないトランプ大統領は、場当たり的または有権者の関心を惹くだけの目的かもしれませんが、誰も本気で手を付けたがらなかったロシア・ウクライナ戦争の停戦にコミットし、イスラエルとガザの問題に、その手法に賛否は存在するものの、首を突っ込んでアメリカのプレゼンスを上げ、そして“マイナーな”戦争と言われたインドとパキスタンの武力衝突(カシミール地方)や、最近のタイとカンボジアの国境をまたいだ紛争の処理にコミットしたことは、それぞれの紛争が連携して、大きな惨禍に広がらないようにしていることは評価できると考えます。

しかし、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席に圧力をかけるために、核の存在を使うことは、長い目で見ると、核兵器を含む紛争の拡散および拡大の危険性を高め、氏が防ぐと宣言した第3次世界大戦を近づけてしまったリーダーとして名を残すことになるかもしれません。

アメリカ政府、特にトランプ大統領が信じる“力による外交・平和”は、世界一の軍事力と経済力を持つアメリカが用いる場合には有効な手法となることがありますが、それを“有効”にする必須条件があるとすれば、紛争の芽を摘み、戦争の連鎖を防ぐリスクマネジメントをしっかりと考慮する明確な長期戦略が存在することだと考えます。

その明確な長期戦略は、これまで戦後80年を通して構築してきた【自由資本主義陣営・民主主義陣営の確固たる同盟関係に基づく連携と協調】を必要とします。

しかし、トランプ政権がこの半年ほどで行っていることは、同盟国の欧州各国や日韓に関税戦争を仕掛けて結束を乱し、国連や国際的な枠組みを軽視し、国際ルールでさえも平気で崩し、デリケートなバランスで世界の破滅の最後の砦となってきたり、全体主義の浸透を防いだりしてきた壁に綻びを生じさせ、結果として、欧州やアジアの安定を損ない、ラテンアメリカとアフリカ、そして中東地域をまた混乱の底に叩き落すことになりかねないとの懸念を強めます。

そしてそのような力の空白と混乱を利用するのが非常にうまいのがロシアのプーチン大統領であり、中国の習近平国家主席です。

最近、ロシアのプーチン大統領が一向にウクライナ戦争の停戦に応じないこと(のらりくらりとかわすこと)に苛立ち、関税の発動をチラつかせ、かつ2隻の原子力潜水艦をロシア近海に配備するといった脅しをかけてみるトランプ大統領ですが、すでにロシアはそれらをただのブラフと意に介さず、プーチン大統領は8月1日の演説で「ロシアの目標は変わらず、国家安全保障に対する脅威の除去という根本的な目標の獲得のために尽力する」と対決姿勢を示し、メドベージェフ前大統領はアメリカからの核の威嚇を「アメリカがそのようにロシアを脅すことを選ぶのであれば、ロシアはそれに応えるまでのこと。アメリカは本当にそれを望むのか?」と挑戦的な反応をぶつけ、核の威嚇には核の威嚇で返すことを選んでいます。

中国については、いろいろな紛争の仲介に乗り出し、解決に向けた提案を行いながら、自国の軍拡、特に核戦力の拡大に勤しんでいますが、それは抑止力というよりは、アメリカとその仲間たちが、台湾の防衛を理由に中国に軍事的なちょっかいをかけてくる場合、自国防衛のために実際に使用する可能性が高い戦術核兵器を含めた核戦力の拡充と意図していると理解できます。

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