プーチン案を丸呑みか、席を蹴ってウクライナと欧州に責任転嫁か。米ロ首脳会談でトランプが“演じ”そうな2つのシナリオ

 

英仏伊をまともに相手にしていないトランプ政権

まず、今回の首脳会談を申し入れたのはアメリカ・トランプ大統領であり、プーチン大統領ではないことが挙げられます。

アンカレッジにロシアの大統領が赴くというのはとても歴史的なことと捉えられますが、今回の協議において、ロシア側が何としても達成したい内容は、すでに長く繰り返し述べられていること、つまり「根本的な原因の除去」であり、すでに実効支配し、一方的に編入したウクライナ東南部4州を国際的に承認させることですが、とくに目新しい内容ではなく、急ぎでもないと理解していますので、雰囲気としては「アメリカが要請したから、“友人として”それに応じただけ」という感じに見えます。

もちろん、ロシアの条件をトランプ大統領が丸呑みし、領土の割譲をフルサポートして、ロシアのエージェントのごとく、ウクライナおよびその背後に居座る欧州各国に対して交渉してくれるのであれば、プーチン大統領も諸手を上げて停戦に賛成し、そのexecutionはトランプ大統領に押し付けることで大きな成果をあげることにつながると考えられます。

就任前にトランプ大統領が「私がプーチン大統領と直に会って説得すれば24時間以内に停戦が成立するだろう」と豪語していたため、今回、その直接対談を実現させることで、ロシア側としては見えない大きなプレッシャーをトランプ大統領にあたえることができることができます。

ただその危険性をトランプ大統領も理解しているのか、米ロ首脳会談を提案した当初から日に日にトーンダウンしていて、今、国内外における期待値を下げにかかっていると思われます。「私がでてきたら解決できる」、「ウラジミールと俺との間で解決する」から「ロシア側があまり乗り気ではなく、残念に感じている」を経由して、直前には「もしかしたら会談は短時間で終わり、Good luckと言い残して席を立つかもしれない」にトーンダウンし、彼なりのリスクマネジメントを試みているようです。

ただディール・メイキングの名人を自称するトランプ大統領としては、目に見える成果をアピールしないと国内的に持たないという認識もあり、その場合には、就任当初、ウィトコフ特使を通じて伝えていた「ロシアの条件を丸呑み」するという決定を行う可能性も否定できません。

それをウクライナはもちろん、この外交的にも、戦後復興ビジネス的にもおいしい案件をアメリカにかっさらわれるのを恐れる欧州各国が挙って「待った」をかけにきています。

英仏独伊は、ウクライナと共に、「ウクライナ抜きの停戦協議はあり得ず、米ロ間で決められた一方的な合意には賛同できない」と発言していますし、「いかなる領土割譲も合意しない」と伝えていますが、それがどれほどトランプ大統領に対する抑止力になるかは、非常に疑問です。

ドイツという例外を除けば、ウクライナ支援において欧州のプレゼンスは非常に低く、実際には金も装備もろくに出さないのに口だけ出す英仏伊という構図が明確になっており、アメリカ政府もまともに相手にしていないのが実情のようです。

「目立つところに首を突っ込み、口を挟んで国内向けのアピールをしているに過ぎない」というのがワシントンDCの大方の認識のようですが、NATOに対するアメリカの負担を軽減するという目的と、アメリカを軸とする同盟関係の維持という観点から一応耳を傾けているにすぎず、トランプ大統領の目はロシアに向いており、同時にイスラエル絡みの案件を早く終え、中国との相克に力を注ぎたいというのが本心ではないかと考えます。

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