葬り去られる可能性が高いウクライナのNATO加盟
ウクライナが切望する“安全保障の確証”、つまりNATO加盟に対しては、実は米ロ共に反対しており、ここだけでもアンカレッジで合意される可能性があります。
ロシアがどうして反対かは「NATOの東進がロシアの国家安全保障上の危機」という認識と、それが「根本的な原因」の主要素であることから明確ですが、アメリカについては、ウクライナにまでNATOが拡大した場合、いくら各国の負担率をGDP比5%にまで高めることに合意されたとはいえ、実質的な負担のほとんどはアメリカが担っていることから、相互関税の議論でも頻出するように、負担のアンバランスを嫌うトランプ大統領としては、これ以上、アメリカの負担が増えることは許せないという基本路線が存在することから、NATO加盟絡みのウクライナの要望は一蹴することになります。
今回のアンカレッジでの米ロ首脳会談は、トランプ大統領側にとってはラストチャンスという位置づけであり、一種の出口戦略(Exit strategy)の一環と見ることもできます。
最近の「Good luckと伝えて私は席を立つかもしれない」は、対プーチン大統領の圧力というよりは、自らのsaving faceのためである可能性が高く、「うまくいかなかったのは、ロシアのせいであり、ロシアと話し合って具体的な条件を引き出したにもかかわらず、それを頑なに受け入れなかったウクライナと、そのウクライナに余計な入れ知恵をした欧州の責任だ」として、アメリカを仲介プロセスから撤退させて、あとの顛末は欧州に押し付けようという意図が見え隠れします。
それはトランプ大統領のみならず、ルビオ国務長官やレビット報道官が、会談が近づくにつれて「合意は難しいだろう」とか「今回はあくまでもロシアから話を聞くための首脳会談に過ぎない」というようにトーンを低下させ、どこか他人事のような発言をするようになってきていることからも見えてくるような気がします。
15日の米ロ首脳会談の結末として考えられるのは、大きく分けて2つだろうと考えます。
1つは「トランプ大統領が成果を重視するあまり、一応、停戦案を提示したうえで、プーチン大統領の要求を丸呑みしてディール・メイキングにこだわる」パターンです。
この場合、アメリカがロシアの主張する条件の後ろ盾としてお墨付きを与え、まるでロシアのエージェントのようにウクライナに内容の受け入れを迫り、欧州をブロックするというシナリオが考えられます。
この場合、中長期的な結果は不透明ですが、少なくとも停戦は成立し、ロシアと欧州を切り離すための緩衝地としてのウクライナが誕生することに繋がることになります。
それはウクライナのNATO加盟を恒久的に葬り去ることになり、ロシアの要請は実現することになります。
加えてロシアはすでに押さえているウクライナ領の2割に当たる部分をロシアに編入できるため、国内的に“特別作戦の成果”をアピールすることに繋がります。
アメリカとしては、トランプ大統領がディールの一部に据えている米国企業とロシア企業の協力強化や、ロシア国内のエネルギーインフラプロジェクトやレアアースプロジェクトへの参入という経済的な成果を得ることになり、その上、“停戦を成立させた”という成果もアピールできることになるため、反対する理由が見当たりません。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









