ウクライナが崩壊を避けるため首尾良く活用すべき「あの国々」
そうなると一刻も早い本格的な支援が必要となるのですが、欧州各国は、自らのプレゼンスの低下を懸念して、ウクライナの意思よりも、自分たちの利害で交渉の場に絡み続けようとし、それゆえに余計な口出しだけをしてくるのですが、この欧州の「口だけ出して金も武器も出さない」姿勢の継続が、紛争の解決を遅らせ、事態を余計にややこしくしているように見えます。
もちろん、アメリカ同様、ロシアとの直接的な対峙は安全保障上、絶対に避けるべきという“戦略的な思考”が根底になることは否定しませんが、欧州の場合、ウラル山脈以西のロシアは欧州と地続きであり、プーチン大統領の国家安全保障に絡む思考は欧州方面に向いていることから、ロシアと直接事を構える羽目になる恐れがあり、かつ対ロ経済制裁で割合としては減少したとはいえ、欧州のエネルギー安全保障上、ロシアとのつながりは必須であることと、(これはあまり報じられませんが)元々欧州はウクライナがさほど好きではないことが背景にあり、対ウクライナ支援の要請に応えられない・応えないという事情があります。
となると、ウクライナの頼みはやはりアメリカなのですが、先に触れたように、トランプ大統領の戦略的なターゲットはインド太平洋地域における中国の台頭にいかに対応するかということであり、可能な限り早く中国とのディールに集中したいというのが本音ではないかと思います(もちろん、誰も解決し得なかったロシア・ウクライナ戦争とガザ問題を解決に導いたとなると、ノーベル平和賞も見えてくるという欲はあるでしょうが)。
アメリカも欧州も頼れず、中国は信用できないのであれば、ウクライナは座して崩壊を待つほかないのでしょうか?
状況はかなり困難であることには間違いないのですが、考えうる手段があるとすれば、プレゼンスを高めたいと願う欧州各国とEUを上手に使うことだと思います。
EUは内部での調整が非常に難しく、中には親ロシアなハンガリーや、大統領と首相で真反対を向いているウクライナの隣国で、EUの問題児ポーランド、経済的な格差に不満を抱く南欧諸国と東欧諸国の存在など、多くのギャップとジレンマを抱える共同体ですが、EU加盟27カ国の総人口は2024年1月時点で4億4,930万人となっており、経済規模は19兆4,031億ドル(2024年)で間違いなく世界の一大経済圏を構成しています。
米中のポートフォリオとも遜色ない内容であり、内部での混乱はあるもののれっきとした世界第3位の経済となっているため、27か国が一丸となって動くと相当のパワーハウスになりますが、意思決定においてどうしてもフランス・ドイツ・イタリアの影響力が強く、残りがそれに付き従うという構図が生み出す不公平感が団結を阻んでおり、世界的なプレゼンスを高めるためのOne Voiceを打ち出せないのが現状で、それが確実にEUの地位低下の元凶になっています。
ただ、ロシアとの距離感もまちまちであるものの、現状を“良し”としている加盟国はなく、温度差はあるもののウクライナ支援の方向性は概ね一致していることから、自らのcollective Bargaining Powerの使い方を間違えなければ、このミッション・インポッシブルとさえ言われるロシア・ウクライナ戦争の解決に一役買えるどころか、主役に躍り出ることができるかもしれません――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年8月29日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、8月分のバックナンバーをお求め下さい)
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