3.新興市場へのシフト:ASEAN、インド、アフリカの可能性
中国の価格競争型モデルは、日本の高コスト構造に適合しない。低人件費を武器とした大量生産は、日本の強みである精密技術や高付加価値製品とは相容れない。
そこで、日本企業は生産拠点をASEAN、インド、中南米、アフリカなどの新興国に移転しつつ、国内では高付加価値分野に特化するハイブリッド戦略を採用している。
ASEAN諸国では、ベトナムやタイが人気だ。地理的近接性とRCEP(地域的な包括的経済連携)の恩恵で、関税障壁が低い。たとえば、ホンダはベトナム工場を拡大し、自動車部品の現地生産を増やしている。これにより、中国リスクを分散し、コストを最適化した。
インドは人口ボーナスと巨大市場が魅力で、2025年までにスズキの投資が倍増した。中南米のメキシコは、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を活用した北米市場アクセスが強みだ。アフリカでは、ケニアや南アフリカでのインフラ投資が、資源確保と市場開拓を兼ねている。
トランプ関税はこのシフトを加速させた。米国市場への依存度を下げ、多角化を迫られた結果、日本はEUや中東との関係を深化させた。日EU・EPA(経済連携協定)により、欧州市場でのシェアが拡大。
カナダや南米とのFTA(自由貿易協定)も活発化し、2025年の輸出先多様化指数は過去10年で最高を記録した。
これにより、日本製造業はグローバルなレジリエンスを獲得し、単一市場依存の脆弱性を克服している。
4.高度人材の流入:米国の衰退がもたらすチャンス
米国の政治的分断と保護主義は、高度人材の流出を招いている。シリコンバレーのエンジニアや研究者が、ビザ制限や社会不安を理由に国外移住を検討する中、日本は魅力的な選択肢として浮上した。
安定した生活環境、質の高い教育・医療、そして政府のビザ緩和政策が後押しだ。2025年の特定技能制度拡大により、外国人労働者の受け入れが前年比30%増となっている。AIやバイオ分野の専門家が日本企業に流入し、イノベーションを加速させている。
たとえば、米国の半導体規制強化により、半導体の専門家が日本に移住している。インテルやNVIDIAの元社員が、東京エレクトロンやルネサスで活躍するケースが増加した。これにより、日本は「技術大国」としての地位を再確立したといえよう。
トランプ関税が米中対立を激化させた結果、米国自身のイノベーション力が低下し、日本に人材が集まる好循環が生まれている。
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