国民の訴えに真正面から答えられていない中東各国の政府
イスラエルによるドーハへの攻撃から時を少し遡ると、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区出身の若者2人がエルサレムで一般市民を無差別に殺害するというテロが起き、これに対してはアラブ首長国連邦なども激しく非難していますが、これは裏を返せば、国際社会の目がガザに向けられている裏で、イスラエルの極右勢力が推すヨルダン川西岸地区におけるユダヤ人入植地拡大とパレスチナの東西を分断する企てに対するヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の叫びを無視したことに対する怒りと、そして恐怖が引き起こした事件であるとも言えるかと思います。
決してこのようなテロ攻撃を支持することも許容することもありませんが、一般市民が抱える怒りと恐怖のマグマがいつ何時暴力という形で爆発するかわからないという脅威を想起させます。
パレスチナ全域における一般市民の蜂起や攻撃については、イスラエルがいろいろな理由をつけて鎮圧にあたっていますが(鎮圧というと正義みたいに誤解されるかもしれませんので、抑圧と言い換えます)、他のアラブ諸国ではどうなのでしょうか?
中東地域の問題というとどうしても私たちはイランやイスラエルの問題ばかりが目につき、イスラエル・イラン絡みでイエメンのフーシー派の攻撃を思い起こしてしまいますが、アラブ諸国を悩ませる問題として、どの国も国内における一般市民からの訴えに真正面から答えられていないというものがあります。
その背後には王室の正統性を死守しないといけないという使命との戦い、国内における均衡勢力間の争いの存在、イスラムの教義に沿った統治と国民の声を聴く政治、イスラム教の宗派間の作られた対立…などいろいろとありますが、その基盤には「非常に手厚い福祉と報酬の見返りに政治的な発言・行動を控える」という不文律の存在があると考えます。
今回のドイツ出張で扱う内容の一つに「気候変動問題に対する危機と国際安全保障の連携」というものがありますが、世界的なトレンドを見るという題材の他に、アラブ諸国における国家安全保障とガバナンスに影響を与える気候変動危機というものがあり、そこではイエメンやイラクにおけるClimate Activismに対する政府からの弾圧の有無について議論が行われました。
Climate Activismとして真っ先に思い浮かぶのはグレタさん(Ms. Greta Thunberg)の活動かもしれませんが、自分たちの日常生活に危機的な影響を与え続ける気候変動の危機に対して、中東地域においてもここ数年、市民運動が非常に活発化しており、それが各国政府を悩ませているとのことです(会議に参加したサウジアラビア王国の専門家など)。
とはいえ、政府がそれに真正面から対応し、対策を練っているかといえばそうではなく、どちらかというと言論の抑制や活動家の収監、活動家に対する脅し(silencing)という負の対策が目立つように思われます(これについては、もちろん中東各国の政府関係者は否定するのですが、怒って離席するようなことはなく、議論には付き合ってくれたのがとても印象的で、かつ口には出せない苦悩を感じます)。
Climate Activismの側も、水不足や干ばつ、洪水、農業の崩壊、地下水への海水の浸食といった環境・食料・水問題を訴えかけてはいるのですが、それに交じって政府の腐敗や汚職、そして王族への非難などを行っているため、どうもそれが政府による弾圧の対象になってしまっているようです(一部には欧米の環境活動家や組織からのサボタージュとの批判もあるようです)。
これらは私たちの目には届かない隠れた紛争といえます。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









