またも“やらかした”イスラエル。ガザ停戦の淡い期待を打ち砕いた暴君ネタニヤフの「カタール空爆」という大蛮行

 

注目すべき中東アラブ諸国の民衆が蜂起した理由

2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃を機に、イスラエルとハマスの戦いが始まり、それがレバノンやシリア、そしてイランやイエメンにまで影響が及ぶことになりましたが、それは軍事的な衝突や緊張の高まりというハードコアな安全保障上の脅威だけではなく、エネルギー安全保障、環境破壊、気候変動の悪影響の激化など、私たちの日常生活にも損害を与えています。

イランが支援する武装組織(ハマス、ヒズボラ、フーシー派、イスラム同胞団など)とアメリカ・イスラエルの間での軍事的な衝突は、イラクやイエメンにおける政治的な不安の程度を増し、政府の統治(ガバナンス)の失敗の状況が色濃くなってきていますが、その混乱に乗じてイラクの水資源をトルコとイランが横取りし、イラク国内ではこれまでに増して深刻な水不足が引き起こされているという情報が入ってきました。

それが2025年5月にイラク北部バスラにおける民衆蜂起に繋がりましたが、その背景には、単なる水資源の枯渇という危機のみならず、環境基準を無視した原油生産が引き起こした水資源の深刻な汚染(飲み水としても農業用水としては使えない)と市民の重大な健康被害が起きていたことがありましたが、これらが報じられることはなく、このデモもAl-Madina地区(バスラ市)の当局によって制圧されました。

いろいろな意味で重大なインシデントと言えますが、注目すべきは環境問題、特に気候変動関連の被害の是正に向けた声が、言論統制が行われている中東アラブ諸国で民衆蜂起に繋がったという点です。

この現象は環境保全に対する民衆の意識の高まりという評価もできますが、その背後にはイラク政府に対して環境の保護を国家安全保障の一つの軸に据えるべきだという要求の強まりが存在します。今後、イラク政府が(とはいえ、ガバナンスとしては未だに実態がない)どう民衆の声に“前向きに”応えることができるか注目です。

目をイエメンに移すと、安全保障上の懸念と言えば、主にイランに支援されているフーシー派による紅海の船舶に対する攻撃行為が思い浮かびますが、世界銀行や国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)によると、イエメンと言えば実は世界で最も水不足に苦しむ国の一つで、長年の国内外での戦闘行為による疲弊も手伝って、年々状況は悪化の一途を辿っているとのことです。

また2024年夏(ちょうど1年前くらい)には経験したことがない大雨に見舞われましたが、元々灌漑設備が脆弱であるため、深刻な洪水が発生し、結果、数万に上る家が流され、6万人超が亡くなり、農業と酪農のインフラを崩壊させるという事態が起きました。

しかし、深刻な被害を目の当たりにしても、サナアを拠点するフーシー派、アデンを拠点とする政府、南部移行委員会(Southern Transitional Council)、そしてアラブ湾岸諸国が後押しするサラフィスト武装組織などに分かれた政治・統治形態の乱立ゆえに、誰も何ら効果的な対応が出来ず、オマーンなどを中心とした国際的な組織に依存するしかなく、それがまた国内のリソースの海外流出という悪循環を生み出していますが、これについても特段対策が行われていないだけでなく、国際的な関心も向けられていないのが実情です。

ゆえに世銀やUNDP、UNEPなどが緊急支援プログラムを起草し、それぞれの総会などで協議したか、する予定だったようですが、昨今の財政難の煽りを受けて、実現には至っていないようです(UN-OCHAのディレクターが嘆いていました)。

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