公明代表が口にした高市氏にとっての「とんでもない発言」
まず、高市氏を支援する中心勢力だった旧安倍派が、衆院選と参院選で大量落選し、いまや50人ていどに減ってしまった。しかも旧安倍派や他派の保守系議員がそっくり高市支援にまわるとは限らない。
というのは、小林鷹之氏が前回に続いて出馬するからだ。保守的な政治信条を持つ点で高市氏と共通するため、ネット上では「今回は高市さん一本で、譲ってくれませんか?」「高市さんに保守の力を集めましょう」などと小林氏の立候補見送りを望む声があふれたが、実際のところ、この二人はほとんど話をしたことがない間柄らしく、“共闘”は望み薄である。
なにより、財政政策の面で二人は全く異なる立場をとっている。高市氏は言わずと知れた「積極財政派」だが、小林氏は出身省庁である財務省と宮澤洋一・自民党税調会長のために、衆院財政金融委員会の理事として汗をかいた「緊縮財政派」だ。もし小林氏が3位以下となる場合、その支援議員らが決選投票で高市側にまわる可能性はかなり低い。
その点、小泉氏は80人くらいいる無派閥や菅義偉グループの支持を受けているだけに、議員票では手堅い票読みができそうだ。林芳正官房長官を支援する旧岸田派、茂木敏充氏を担ぐ旧茂木派も、高市vs小泉の決選となれば、多くが小泉側に馳せ参じるだろう。
注目の的は元のまま残るただ一つの派閥「麻生派」の動向だ。高市氏とすれば、前回総裁選と同じように味方になってほしいところだが、なにしろ麻生氏は「勝ち馬」に乗り、キングメーカーとして復活することだけにしか関心がない。ひたすら誰が強いかを見極める戦略だろう。岸田政権をともに支えていた茂木氏に気をつかって、はっきりとは言わないが、「進次郎は政治資金問題で泥をかぶった」と評価しているらしく、どうやら麻生氏の気持ちは小泉氏に傾斜しつつあるようだ。
衆参で自公が少数与党となり、野党の協力がなければ政権を運営できない現状において、高市氏が難しい対応を迫られるのが、新たな連立枠組みの構築だ。少数与党のまま野党としっかり協議をして政策を進めていくのも一つのやり方だが、自民党としては連立拡大で安定政権をつくりたいところだろう。
どの候補者を選べばどの野党を連立に引き入れることができるのか。それは議員たちにとって新総裁を選ぶための重要なポイントとなる。小泉氏なら日本維新の会という名がすぐに思い浮かぶが、高市氏はどうか。安全保障、憲法改正、積極財政など一部の政策において類似点がある国民民主党との連立を期待する向きがあるが、そう簡単ではない。
選択的夫婦別姓制度実現に向けて取り組んでいる国民民主の支持母体「連合」が、右派思想の色濃い高市氏と手を握ることに同意するとは思えないからだ。そもそも、国民民主とは連立が組みにくい面がある。党勢拡大を急ぐ国民民主は、自民との候補者調整で妥協できないだろう。
高市氏の場合は、肝心の“自公”連立にも危険信号がともる。「創価学会」の婦人会員たちの間では高市氏を嫌う声が多く、公明の斉藤鉄夫代表は「保守中道路線の私たちの理念に合った方でなければ、連立政権を組むわけにいかない」(9月7日)と、あきらかに高市氏を意識した予防線を張っている。
高市氏にとっては、とんでもない発言であろう。自民党国会議員の多くが公明・創価学会の票をあてにしているからだ。公明党との仲を割くかもしれない高市氏を避けようとする動きが、総裁選のなかで一定数は出てくるに違いない。
たとえ高市氏が新総裁になるとしても、連立の拡大や野党との連携が首尾よく進まないようなら、首相指名選挙までの短い期間に野党が結束し、非自公の連立政権が誕生する可能性も全くないとは言えない。
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