いわゆる「MAGA派」の若手代表格として知られたチャーリー・カーク氏の暗殺事件を利用する形で、自身に批判的なメディアへの圧力を強めるトランプ大統領。民主主義の根幹を揺るがしかねないこの強引極まるやり口に対して、米国内では著名人からも批判的な声が上がっています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、トランプ氏の分断を煽る手法を厳しく批判。さらに自民党総裁選の有力候補である高市早苗氏とトランプ氏の「共通点」を指摘しつつ、高市氏の総裁選における演説内容について苦言を呈しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:アンジーの溜息
悲しみのアンジー。「人気番組打ち切り」に狂喜のトランプと「奈良の鹿デマ」を流す高市早苗
最近、日本で「アンジー」と言えば、ガールズバンド「ガチャリックスピン」のマイクパフォーマー、アンジェリーナ1/3のことであり、喫緊では本名の「愛理」が由来の「ailly(アイリー)」というソロ名義でリリースした『Radiory(レディオリー)』が話題になってる岡本太郎好きのNGS(野グソ)ガールのことになります。だけど、あたしみたいな「昭和BBA」にしてみれば、「アンジー」と言えば「アンジェリーナ・ジョリー」のことであり、高田純次の「こんばんは!アンジェリーナ・ジョリーです!」というギャグが定番なのです。
で、今年で50歳を迎えて「人生百年時代」の半分を消化した本家本元のアンジーことアンジェリーナ・ジョリーですが、最新の映画『Couture(クチュール)』では、主役のマキシン・ウォーカー役を演じました。パリを舞台にした高級ブランドを巡るファッション映画ですが、派手な世界の舞台裏にスポットを当てた女性監督アリス・ウィノクールの斬新な切り口が話題となり、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭では最高賞の候補作としてノミネートされています。
しかし、せっかくのサン・セバスティアン国際映画祭の会見でアンジーに向けられた女性記者からの質問は、作品とは無関係のもの、現在のアメリカにおけるドナルド・トランプ大統領による言論弾圧についてどう思うか?…というものでした。欧米メディアのニュースが日本でも訳されて、アンジーが「自分の国を認識できない」と述べたと報じられました。
でも、グーグル先生の自動翻訳機能を使ったような日本語の記事では意味が良く分からないので、あたしは実際の会見の映像を探して観てみました。そしたら、女性記者から質問されたアンジーは、当初、とても困った表情をして、しばらく沈黙してしまいました。そして「ここは作品と無関係な質問でも1人のアメリカ人として答えるべきだろう」と考えたようで、十分に言葉を選んだ上で、静かに話し始めたのです。
アンジー 「I love my country but I don’t recognise it right now.」
直訳すれば「私は自分の国を愛していますが、今はそれを認識できません」という意味です。だから日本の記事は「自分の国を認識できない」という意味不明な和訳を報じたのでしょう。でもこれって、全体の脈略から考えれば「私は自分の国を愛していますが、今はそう断言できなくなってしまいました」とか「私は自分の国を愛していますが、今はそう言えない自分がいます」とかってニュアンスの言い回しになるのです。
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アンジーを絶望させたトランプの卑劣極まる言論弾圧
以下、いつもの「きっこ訳」で書いて行きますが、アンジーは次のように続けました。
アンジー 「私はこれまで、アメリカだけに留まらず、常に国際的に生活して来ました。私の家族は国際的な感覚を持っており、私の友人たちも同様で、すべてが私の人生の一部です。私の世界観の基本は『平等』であり、それは考え方の違うすべての人々がお互いを認め合って国際的に団結することなのです。個人的な表現は自由であり、それを制限したり分断を煽ることは非常に危険だと思っています」
アンジー 「しかし、アメリカの言論の自由は、今、非常に危険な状況に直面しています。今はとても深刻な時期なので、こうした会見の場での軽々しい発言は控えなければなりませんが、ここにいる皆さん、この会見を見ている皆さんも同様に、今、一緒に生きている私たちはすべて、とても、とても過酷な時代を迎えてしまったのです」
そんなアンジーは、ドナルド・トランプ大統領が言論の自由と民主主義を破壊し続ける今のアメリカに住み続けることはできないとして、海外への移住を検討し始めたそうです。アンジーには元夫であるブラッド・ピットとの間に養子、実子を含めて6人の子どもがいますが、一番下の双子、ノックスとヴィヴィアンが来年18歳になるので、そしたらロサンゼルスの2450万ドルの豪邸を売りに出す予定だと述べました。
で、何がアンジーにここまで言わせてしまったのかと言えば、もちろん、トランプ大統領を崇拝する保守系政治活動家チャーリー・カーク氏(31)がユタ州で銃撃されて死亡した事件を巡る一連の言論弾圧です。トランプ大統領の信奉者と言えば「Make America Great Again」の頭文字「MAGA」を旗印にした過激な集団ですが、その代表格とも言えるのが、右翼団体「ターニングポイントUSA」の代表をつとめるチャーリー・カーク氏でした。
人種差別や外国人排除やLGBTの否定を看板に掲げるカーク氏は、9月7日に来日し、自身と考え方が同じ神谷宗幣代表率いる参政党のイベントに参加して交流を深めた後、帰国して9月10日にユタ州の「ユタバレー大学」で講演中に、約200ヤード離れた場所から銃撃されて死亡しました。
この辺りは日本でもさんざん報じられたので詳細は割愛して先へ進みますが、この事件が発生した直後、まだ犯人がどこの誰かも分からない状況で、ドナルド・トランプ大統領は「過激な左派による犯行」だと吹聴して、対立する勢力を厳しく批判しました。
そして、この事件を取り上げたのが、米ディズニー傘下のABCテレビで2003年から20年以上も続いて来た深夜の人気トーク番組『ジミー・キンメル・ライブ!』でした。以前からトランプ大統領のことを笑いも交えながら批判して来た司会者ジミー・キンメル氏(57)は、9月15日の放送で、事件発生から33時間後に自首したタイラー・ロビンソン容疑者(22)が「もともとはトランプの熱烈な支持者、MAGAだった」と指摘したのです。
しかし、最近になってトランスジェンダー女性と交際するようになったロビンソン容疑者は「性別は男女の2つのみ」とするトランプ大統領の政策を疑問視するようになり、LGBTを否定するカーク氏への銃撃を計画したというのです。ロビンソン容疑者がトランスジェンダー女性と交際していた事実はユタ州のコックス知事が公言しており、すでにそのトランスジェンダー女性からの聞き取りも行なったと述べています。
ジミー・キンメル氏は、こうした事実を説明した上で、トランプ大統領や支持者のMAGAたちは「左派の犯行だ」と連呼しているが、実際は、もともと自分たちMAGAの仲間だった人物の犯行であること隠すために嘘を連呼しているのだと一刀両断したのです。
分断と恐怖で支持固めを図るトランプの危ういメディア戦略
まだ犯人が誰だか分からない時点で「過激な左派による犯行」と吹聴したトランプ大統領を見れば明らかなように、トランプ大統領は分断を煽ることで自身の支持者を拡大して来ました。
今回も、亡くなったチャーリー・カーク氏に勲章を与えるなどの特別な計らいを行なう一方で、タイラー・ロビンソン容疑者を「過激な左派」と決めつけることで分断を煽り、自身の支持者をより強固にしようと企んだことは明白です。ジミー・キンメル氏もそれを見透かしていたため、15日の放送では、事件の2日後、12日のトランプ大統領の記者とのやり取りを紹介しました。
この日、ホワイトハウスの前で記者から「友人のチャーリー・カーク氏を亡くされお悔やみ申し上げます。ここ1日半、いかが過されていましたか?」と質問されたトランプ大統領は、満面の笑みで次のように答えたのです。
トランプ大統領 「極めて順調だ。ところであそこにトラックが見えるだろ?あれはホワイトハウスの新しい宴会場の建設工事を始めたところなんだ。150年前に計画されたのに今まで着手されなかった。それを私が実現するのだ。素晴らしいものになるぞ」
カーク氏のことなど眼中になく、新しい宴会場のことで頭がいっぱいのトランプ大統領。このやり取りを見ただけでも、これまでカーク氏を讃えたり大袈裟に悲しんだりして来たのは分断を煽るための演出であり、実際はカーク氏のことなど何とも思っていなかったことが良く分かります。そして、このやり取りを紹介したジミー・キンメル氏は「これでは金魚の死を悲しむ4歳児と同じレベルだ」とトランプ氏を切り捨て、スタジオの笑いを誘いました。
すると、この15日の放送のわずか2日後の9月17日、22年間も続いて来た人気番組の突然の打ち切りが発表されたのです。トランプ大統領はすぐさま自身のSNSに「アメリカにとって素晴らしいニュースだ。低視聴率のジミー・キンメル・ライブが打ち切りになった。勇気を出してやるべきことを実行したABCを祝福する」と投稿しました。そして、次の投稿を続けたのです。
トランプ大統領 「キンメルは才能がゼロだ。コルベアよりも視聴率が悪いかもしれない。残るはフェイクニュースのNBCにいるジミーとセスの2人の完全な負け犬だけだ。彼らの視聴率もひどい。NBCよ、やれ!!!」
ちなみに「コルベア」とは、すでにトランプ大統領の圧力によって2026年5月の終了が決定しているCBSテレビ『ザ・レイト・ショー』の司会をつとめるコメディアン、スティーブン・コルベア氏のことです。また「ジミーとセス」とは、NBCテレビでそれぞれ冠番組を持つコメディアン、ジミー・ファーロン氏とセス・マイヤーズ氏のことです。この人たちは全員、トランプ大統領に批判的な論調を売り物にして来ました。
つまり、以前から自分に批判的な番組を持つテレビ局の放送免許を剥奪しようと画策して来たトランプ大統領が、とうとう実際に動き始めたわけです。そして翌18日、トランプ大統領はこんなことを言ったのです。
トランプ大統領 「多くの深夜のトーク番組が私を叩いているが、私に批判的なテレビ局は民主党の手先だ。放送免許を受けていながら私を叩くなど許されない。こうしたテレビ局には放送免許の取り消しを検討すべきだ」
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「外国人排除」を煽る高市のトランプと重なる危うさ
この恥ずかし過ぎるニュースは、19日の文化放送『アップデート』でも報じられました。すると、パーソナリティーの長野智子さんが間髪入れずに「これ、どこかで聞いたことがありますねえ」と反応し、次のように続けたのです。
<長野智子さん 「今年は安保法制成立から10年ですが、これはその頃の話です。今、総裁選に立候補している方、当時の高市早苗総務大臣が、政治的公平に反してると分かったテレビ局に対して『違反を繰り返した場合は電波を停止する可能性』に言及して、メディアでも大騒ぎになりました」>
もちろん、公共の電波が「政治的公平に反すること」を垂れ流すのは良くありませんが、それでは何を持って「政治的公平」だと言うのでしょうか。故・森永卓郎さんは自民党を批判してテレビのレギュラー番組を降板させられましたが、その一方で立憲民主党や日本共産党を批判しているコメンテーターは今もテレビで重用され続けています。
そして、さらに言わせてもらえば、現在は各テレビ局がこぞって「自民党の総裁選」を報じまくっていますが、大多数の国民に投票権のない一政党の内輪の選挙に、一体どんな公共性があるというのでしょうか。これでは単なる自民党の宣伝であり、近い将来に行なわれる衆院選を踏まえれば、野党各党も自民党と同じ時間、テレビで報じないと「政治的公平に反すること」になるのではないでしょうか。
高市早苗氏は、自身を含めた総裁候補全員のテレビへの露出を今すぐやめさせるか、または総裁候補と同じだけ野党各党の議員もテレビ出演させないと、10年前の自分自身と言動不一致になってしまいます。これまでさんざん事実無根の大嘘を垂れ流して来たのですから、本気で総裁を目指しているのであれば、せめて総裁選の間くらいは自分の発言に責任を持って欲しいものです。
それから、高市早苗氏は総裁選の演説で何の証拠もないのに「奈良の鹿を足で蹴り上げるとんでもない外国人がいる」と十八番の嘘を垂れ流して「外国人排除」を掲げる「日本人ファースト勢力」を焚きつけてナショナリズムを煽りましたが、これってドナルド・トランプ大統領の今回の手法とまったく同じですよね。奈良県の担当者は「そのような事例は確認されておらず通報もない」と完全否定しているのですから、いいかげんデマの吹聴はやめてください。
【追記】
日本時間9月23日、ABCテレビの親会社ディズニーは、ジミー・キンメル氏との協議の上で、23日よりトーク番組『ジミー・キンメル・ライブ!』を再開すると発表しました。
(『きっこのメルマガ』2025年9月24日号より一部抜粋・文中敬称略)
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