「国連の機能不全」を招いた“戦犯”は誰か?イスラエル絡みの決議案に拒否権を発動しまくる米トランプが国連批判の噴飯

 

UAEの「反イスラエル化」で起こり得る中東での全面戦争

そのような中でも、私としては国連中心の国際協調の最後の砦がGeneve Conventions(総称される国際人道法や、戦時に学校や病院などの施設に対する攻撃を禁じる条約)だと考えているのですが、このGeneva Conventionも今、国際社会によるイスラエルへの対応の前に、その意義が危険にさらされています。

これはイスラエルによるガザへの攻撃と人道支援の停止という兵糧攻めに対して、サウジアラビア王国やトルコ、ブラジルをはじめとする多くの国々と、人権理事会の独立調査委員会の報告書の結論にもあるように、イスラエルの行動をジェノサイドと認定し、イスラエルに即時対応を求める声が上がっていますが、イスラエルはそれを完全に無視し、アメリカもスルーするという暴挙に出ていることから、その体制が崩壊の危機に瀕しています。

イスラエルは2023年10月7日のハマスによる同時テロと人質事件をイスラエル国家に対する安全保障上の挑戦と捉え、自衛権の行使としてその後の苛烈な攻撃と人道支援の停止・妨害を正当化し、おまけに学校や病院などへの攻撃も「それらの施設がハマスの秘密基地として利用され、ハマスが一般市民を人間の盾として用い、イスラエルに対する攻撃の拠点として用いていることが明白であることと、そこにいる“一般市民”も恐らくハマスの構成員と言う証拠があることから、それらの施設への攻撃は、イスラエルの安全保障のためには不可欠であり、今後もやめる予定はない。ハマスの壊滅という任務をイスラエルは完結させる」として、Geneva Conventionの精神も法の支配によるルールも全面否定しています。

本来、法の支配の重要性を強調するアメリカ政府もイスラエルの肩を持ち、国連および国際司法裁判所、そしてGeneva Conventionを軽視する立場をとっているため、今、中東における悲劇はエスカレーション傾向にあると同時に、そろそろ堪忍袋の緒が切れるアラブ諸国の反イスラエル感情が高まってきているという、大変危険な状況が鮮明化しています。

そんな中、ついにアラブ首長国連邦(UAE)が激しいイスラエル非難を行い、「このまま我々からの要望に耳を貸さず、ガザにおける蛮行を継続し、さらにはヨルダン川西岸地区(West Bank)での入植を強行するのであれば、それは2020年のアブラハム合意の理念に反することになり、UAEとしては合意からの離脱も視野に対応する必要がある」として、イスラエルに圧力をかけ始めました(また9月25日には「イスラエルがガザにおける恒久停戦を成し遂げるまでは、ネタニエフ首相のUAEへの渡航は拒否する」との声明を出しています)。

アブラハム合意の存在がアラブ諸国からのイスラエル攻撃の抑止力として作用し、今、アラブ諸国を完全に敵に回すことができない(そしてトランプ大統領のレガシーを崩壊させかねない)イスラエルのネタニエフ首相は、極右の過激な姿勢を制して、入植計画の再凍結を宣言し、何とかアラブとの全面戦争を避けたいという動きを見せています。

ただミソはUAEの非難が王室でもなく、政策の責任を負う外務大臣でもなく、外務副大臣に国際的な場でさせたという点で、イスラエルに「まだ首の皮一枚残っている。今のうちにヨルダン川西岸の占拠と入植地拡大という国際法違反の行いを再考せよ」という最後通牒を送ったと見ることが出来ます。

これがいずれ首長や外務大臣による発言に代わった場合には、UAEはアブラハム合意を破棄し、GCC(湾岸諸国協力機構)の国々と共に反イスラエルの先頭に立つことになるかもしれません。

すでに盟友のサウジアラビア王国は、皇太子のモハメド・ビン・サルマン氏自ら「イスラエルの行いは疑いの余地なくジェノサイドだ」と対立姿勢を示していますので、UAEが反イスラエルに代わると、イスラエルとの本格的な対峙を止める存在がいなくなるため、中東地域での全面戦争も起こり得ます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • 「国連の機能不全」を招いた“戦犯”は誰か?イスラエル絡みの決議案に拒否権を発動しまくる米トランプが国連批判の噴飯
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け