「痩せる」ではなく「血糖値管理」だったという真実
厚労省の資料には、参考文献として「ベジファースト」の火付け役となった京都市のクリニックによる論文が記載されていた。
読んでみると、2型糖尿病患者を、「従来の糖尿病用の栄養管理指導を行うグループ」と「炭水化物より野菜を先に食べる方法を指導するグループ」にわけて、2年間経過観察するというものだった。
その食べ方は、こうだ。
- 野菜だけを、1口につき最低20回咀嚼して、15分かけて食べる。
- 肉・魚を食べる。 1口につき最低20回咀嚼する。
- 炭水化物(ご飯)を食べる。
論文を書いた医師の説明によれば、野菜を食べたあと、15分ほど間隔を空けて、それから肉・魚に移ることが理想らしい。
やたら提供の遅いコース料理店でもなければ、難しい食べ方である。病気だから仕方がないという話なのかもしれないが、15分かけて野菜だけを食べて、さらに15分も間隔を空けていたら、温かい肉料理などは冷めてしまう。
さらに、この食べ方をしたグループには、「果物を食べない」「キノコ・豆類を増やす」「食べたものを記録する」「通院して栄養士から20~30分間の指導を受ける」「1日30~40分のウォーキングを行う」という指導も入っていた。
結果的に、このグループでは「野菜の摂取量が優位に増加して、果物や菓子類の摂取量が減少し、2型糖尿病患者については、従来の食事療法よりも、野菜を先に食べる食事法のほうが優れた血糖コントロールを達成できた」──と結ばれている。
食後の血糖値が、食べるものによって変動するのはわかったが、果物や菓子、ウォーキングの話まで出てきて、なんだか狐につままれたようだ。
それにそもそも、この実験で測定されているのは血糖値であり、体重には着目されていない。そりゃこれだけ管理していれば、痩せるだろうとは思うが、「野菜を先に食べたら痩せた」という話とはまったく違うのだ。
「野菜を先に食べる」の記載をごっそり削除した厚労省
ところが、世間には「野菜を先に食べると、体重を減らせる」というハイパー曲解だけがあふれている。「痩せる」「ダイエット」などの単語は、商業的に強烈なパワーを持っているのだから仕方がない。情報につられて、不摂生な食生活を送る人たちが、少しでも野菜を食べるならいいじゃないかとも言える。
だが厚労省は、2025年版の「食事摂取基準」から、「野菜を先に食べる」の記載部分を、項目ごとごっそり削除している。
そもそも糖尿病患者向けの特殊な手法を一般化するには無理があるし、現実の食卓で再現できるものでもない。「野菜」だけを推す研究論文自体がいまいちあやふやだし、「痩せる」という誤解が世間に広まりすぎているのもまずいという判断もあったのだろうと思われる。
それ以前にまず、「日本人の食事摂取基準」として、国が、食べる順番にまでどうこう言及していること自体が、私は不愉快なのだが。
この「厚労省がベジファーストを削除した」件は、医療関係者の一部で話題となり、結果、ネットでは「ベジファースト否定派」が突如として勃興、「厚労省が削除したぞ!」と情報を発信している。
最近では、「ベジファーストはもう古い」として、「ミートファースト(肉から食べて米を後回しにすれば痩せる)」「カーボラスト(炭水化物を最後にするだけで痩せる)」など、派生的な食事法も次々と登場。また、高齢者向けの著作を次々に出版している医者からは、「70代以上にベジファーストはNG」「タンパク質不足でうつ病を発症する」などの見解も出されている。
もはやネットで発信する医者や栄養士それぞれが、「健康」と「ダイエット」をネタに、注目を浴びるためのカウンター情報を発信しているだけではという状況だ。









