厚労省の「誰一人取り残さない健康づくり」に見える欺瞞
あやしい健康情報があふれかえるのは、今に始まったことではないが、確実に加速しているのが、政府の「国民を健康にしたい」という狙いである。
「日本人の食事摂取基準」も関連しているが、厚労省は「健康日本21」と銘打って、国民が健康になるよう具体的に実践させていく計画を立ち上げている。
期限を決めて段階的に実行されており、現在は、令和6年度から令和17年度までの「第三次」の段階にあるらしい。

「健康日本21(第三次)」の基本的な目標は、「健康寿命の延伸・健康格差の縮小」だそうだ。厚労省が準備した概要資料には、こんなビジョンが掲げられている。
【ビジョン】
全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現
〈1〉誰一人取り残さない健康づくりを展開する
〈2〉より実効性をもつ取組を推進する人生100年時代を迎え、社会が多様化する中で、各人の健康課題も多様化しており、「誰一人取り残さない健康づくり」を推進する。また、健康寿命は着実に延伸してきたが、一部の指標が悪化しているなど、さらに生活習慣の改善を含め、個人の行動と健康状態の改善を促す必要がある。 このため、「より実効性をもつ取組の推進」に重点を置く。
要するに、かつてなく寿命が延びて、いろんな病気を抱えた老人が出現しているので、健康に生き続けさせるために、生活習慣を改めるよう個人の行動に対してもっと具体的に改善を促していこう(そうしないと医療費が膨大になっちゃうから)という話のようだ。
「健康」を盾にして、個人の行動について国家がつべこべ口を出そうという視点がうざすぎる。
しかも、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる社会」なんて、いまどき誰でもわかる絵空事をよく平気で掲げられるものだ。貧困に虐待に自殺にSNS依存と「健康」以前の社会問題が山積みだと思うが。
一体どうやって実現するつもりなのか?
ベジファーストどころではない国による「健康管理地獄」
資料を読み進めると、「個人の行動と健康状態の改善」について、かなり細かく設定したページが登場した。一部を抜粋しよう。
- 適正体重を維持している者の割合を国民の66%にする
- 主食、主菜、副菜を組み合わせた食事を1日2回以上、ほぼ毎日とっている者の割合を国民の50%にする
- 野菜の摂取量を1日350gにする
- 果物の摂取量を1日200gにする
- 食塩の摂取量を1日7gにする
- 運動習慣者の割合を40%に増やす
- 1日の歩数を7100歩にする
- 睡眠で休養がとれている者の割合を80%にする
- 睡眠時間を6~9時間確保している者の割合を60%に増やす
- 1日のアルコール摂取量を男性40g以上、女性20g以上の者の割合を10%に減らす
- 喫煙者の割合を12%に減らす
- 喫煙による肺疾患の死亡率を10%に抑える
- 糖尿病を1350万人に抑える
- 過去1年間に歯科を受診した者の割合を95%にする
- 歯周炎を有する者の割合を40%に減らす
すさまじい。いちいちいちいちうるさすぎる。
健康を害するものの代名詞と言えば、これまでは酒とタバコだった。だがこれからは、体重、食事の内容、野菜や果物の摂取量、1日の歩数、睡眠時間、歯周ポケットに至るまで、数値を出して、国家がつべこべ言おうという構えらしい。
「あなたは今日7,100歩に届いていません。国民の模範行動を参考に、個人としての行動を改善しましょう」
そんな通知がスマホに届く未来を想像するだけで、血圧が上がりそうだ。









