アメリカン・ニューシネマの代表作として知られる『明日に向って撃て!』等での名演だけでなく、優れた映画監督としても名を馳せたロバート・レッドフォード氏。9月16日に89歳で逝去した直後、トランプ大統領が述べた追悼コメントは一見すると無難なものでしたが、両者の間には深い確執が横たわっていました。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、レッドフォード氏の「遺言」ともいえるメッセージを紹介。さらにその発言が、どれほど現在の「アメリカの危機」を予見していたかを指摘しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ロバート・レッドフォードの遺言
ロバート・レッドフォードの遺言
先月9月16日、アメリカの俳優で映画監督のロバート・レッドフォード氏が89歳で亡くなりました。そして、世界に訃報が伝えられた直後、ドナルド・トランプ大統領に張り付いていた記者団も、この訃報についてマイクを向けました。するとトランプ大統領は、次のように述べたのです。
トランプ大統領 「彼は偉大な人物だった。さまざまな時代において、彼は誰よりも優れた人物だった」
本当にそう思っていたかどうかは別として、ま、アメリカ大統領としては、可もなく不可もなく、及第点のコメントですね。しかし、亡くなったロバート・レッドフォード氏は、俳優と映画監督の他に環境保護活動家としても知られており、長いこと環境破壊や地球温暖化に警鐘を鳴らして来た人物です。
レッドフォード氏は、1975年から「NRDC(自然資源防衛協議会)」に参加し、この年にはユタ州の南東部に新設が決まっていた火力発電所の計画を白紙撤回させました。現在のように地球温暖化の原因として化石燃料が問題視される遥か以前から、クリーンエネルギーを推進して来た人物なのです。
ロバート・レッドフォード氏と言えばポール・ニューマン氏と共演した映画『明日に向って撃て!』でサンダンス・キッドを演じましたが、レッドフォード氏はその役名から命名した「サンダンス・インスティテュート」という非営利団体を主催しており、1978年からインディペンデント映画に光を当てるために「サンダンス映画祭」を運営して来ました。
そして1989年8月には「サンダンス・インスティテュート」の主催で「グリーンハウス/グラスノスチ」という国際会議を開催しました。レッドフォード氏は、アメリカとソ連(当時)という2つの大国のトップの意思疎通がなければ地球の環境問題の抜本的な解決はないと考え、両国から数々の科学者や政治家を招いて大規模なディスカッションを行なったのです。
この世界初の試みは大成功し、最終日には当時のソ連のトップであるミハイル・ゴルバチョフとアメリカのトップであるジョージ・ブッシュから、以下の6項目を列記した書簡が連名で贈られたのです。
両国の適切な既存機関を有効活用し、費用対効果の高い無公害のエネルギー効率化技術の利用を促進する。
すべてのフロンの生産と使用を可能な限り速やかに、遅くとも2000年までに段階的に廃止し、CO2及びその他の温室効果ガスの排出を持続的に削減する。
世界的な森林破壊を減少させ、両国の適切な既存機関の参加により森林再生を加速させる。
一連の共同教育プログラムと各国首脳による直接の行動要請を通じて、上記の取り組みへの一般市民の参加機会を創出する。
両国(アメリカ、ソ連)ともに、これらのイニシアチブの成功は、すべての国民の努力の結集にかかっていることを認識している。そして、両国ともに、一般市民を啓蒙するあなた方の活動を全面的に支援する。
我々は、本会議の冒頭に登場したネイティヴアメリカンの「私たちは先祖から土地を受け継ぐのではなく、次世代の子どもたちからこの土地を借りているのです」という教えに従う。
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また、レッドフォード氏は、2005年には息子でドキュメンタリー監督だったジェームズ・レッドフォード氏とともに、環境団体「ザ・レッドフォード・センター」を設立し、環境保護活動を続けて来ました。残念ながらジェームズ氏は2020年、58歳の若さで胆嚢癌で亡くなってしまいましたが、「ザ・レッドフォード・センター」は現在も精力的に活動を続けています。以下、リンク先の団体のHPには、ロバート・レッドフォード氏に向けた追悼メッセージが掲げられています。
● Robert Redford 1936-2025(THE REDFORD CENTER)
2015年12月1日からパリで開催された「COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)」に向けて、同年6月29日にニューヨークの国連本部で開催された気候変動に関するハイレベルの会合では、レッドフォード氏が登壇し、集まった各国の代表に対して「今すぐに世界の国々が協力して行動しなければならない」と強く訴えました。以下の動画は日本語の字幕付きなので、ぜひご覧ください。
● ロバート・レッドフォード氏、国連本部での気候変動に関するハイレベル会合で世界に訴える
9月25日(木)の文化放送『長野智子 アップデート』にゲスト出演した元・日刊スポーツの編集局長、久保勇人氏は、亡くなったロバート・レッドフォード氏の環境保護活動家としての顔を紹介するため、その1つの具体例として、第1次トランプ政権3年目の2019年11月に、レッドフォード氏がアメリカの3大ネットワークの1つである「NBC」に寄稿したメッセージの一部を紹介しました。
私たちは、生きている間に直面するとは思ってもみなかった危機に、今、直面している。それは、トランプ大統領による、この国のあらゆる理念に対する独裁者のような攻撃だ。
私たちの国は、今、United States of America(アメリカ合衆国)ではなく、Divided States of America(分断されたアメリカ)になってしまった。
この船を正しい方向へ導き、目の前の惨劇の行方を変えるチャンスが必ず訪れる。あなたが共和党と民主党のどちら側にいても、真実と人格と誠実さを備えた人物に投票すると皆で誓おう。世界は今、切実にリーダーを必要としている。われわれアメリカは、今またそのリーダーに返り咲こうではないか。
こうしたレッドフォード氏のメッセージがどれほどの効果を発揮したのかは分かりませんが、翌2020年の大統領選では民主党のジョー・バイデン氏が勝利し、トランプ大統領の再選を阻止することに成功しました。トランプ大統領は「選挙で不正があった!」とギャーギャー騒ぎ立てましたが、選挙結果は覆りませんでした。
しかし、良識あるアメリカ人たちによって大統領の座から引きずり降ろされたトランプ氏は、連日のようにSNSなどでデマを垂れ流し続け、移民を犯罪者に仕立て上げ、国内の分断を煽ることで自分の信者を増やし続け、次の大統領選へと準備を進めたのです。そして、その作戦は、皆さんご存知のように、残念ながら成功してしまったのです。
自分のホワイトハウスを取り戻したトランプ大統領は、上品で重厚感があったホワイトハウスの執務室の内装に、自分の趣味で金箔を貼りまくり、キンキラキンの下品な宮殿にしてしまいました。さらには、3つの連邦政府ビルに、自分の顔が描かれた巨大な横断幕が掲げさせました。あたしは動画ニュースで観ましたが、ひと言で言えば「まるで北朝鮮」です。
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そして、トランプ大統領は、自分に批判的な著名人やメディアを徹底的に攻撃し、気に入らない記者を排除し、気に入らない番組を潰し始めました。こうした現在のトランプ大統領の卑劣な手口を見ていれば、自分の政策を批判し続けて来たレッドフォード氏に対して、トランプ大統領が快く思っていなかったことは一目瞭然です。自分の娘より若いテイラー・スウィフトさんにまで噛みつく大人げないトランプ大統領が、レッドフォード氏の数々の批判を許すわけがありません。
しかし、9月9日の講演中に射殺されたトランプ信者のチャーリー・カーク氏(31)まで利用して支持層固めに余念がないトランプ大統領は、自分のイメージ作りの天才です。本当はレッドフォード氏のことが大嫌いでも、このタイミングでアメリカを代表する俳優で映画監督であるレッドフォード氏の訃報に皮肉の1つでも言えば、世論は一気に風向きを変えます。そこまで読んでいたから、トランプ大統領は、あたかも故人を悼むような表情を作って無難なコメントを述べたのです。
さて、今回あたしが驚いたのは、先ほど紹介したレッドフォード氏のメッセージが、今現在のものではなく、2017年1月20日にスタートした第1次トランプ政権においてリリースされたものだったという点です。先ほどのメッセージを読む限り、まるで今現在のアメリカの姿を予見しての発言のようではありませんか。
トランプ大統領は第1期の時から「地球温暖化などイカサマだ!」とトンデモ発言を連呼しており、2017年の就任早々に「パリ協定」から離脱しました。そして、次のバイデン大統領が「パリ協定」に復帰すると、次のトランプ大統領がまたまた離脱するというドリフのコントのようなことを繰り返して来ました。ですから、2019年の時点でレッドフォード氏がトランプ政権に危機感を覚えたのは当然でしょう。
6年前、第1期トランプ政権下でレッドフォード氏が発信したメッセージは、まさに今現在のアメリカ、そして、世界に向けてのメッセージでもあるのです。言うなれば、これはロバート・レッドフォード氏の遺言なのです。先ほど紹介したメッセージを、最後にもう一度、心して読んでみてほしいと思います。
※ ロバート・レッドフォード氏の映画作品については、次の「トピック」のコーナーで触れていますので、ぜひ続けてお読みください。
(『きっこのメルマガ』2025年10月1日号より一部抜粋・文中敬称略)
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