不満だった官僚の“模範解答”。午前3時の“赤ペン先生”高市早苗「台湾有事は存立危機」発言までの全内幕

 

「熱意の表れ」と「確信をもった加筆」が生んだあの結果

“高市色”が如実に表れたのが、岡田克也氏(立憲民主党)に対する答弁だった。

岡田氏の質問通告にはこんな内容が含まれていた。もし中国が台湾への海上封鎖をした場合、集団的自衛権に基づいて武力行使が可能な「存立危機事態」になりうると高市首相が昨年の総裁選で発言した。それについてどう考えているのか。

事務方が用意した答弁は、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めた安倍政権から石破政権にいたるまで等しくとられてきた方針を継承する内容だった。すなわち、台湾有事の事例をあげて「存立危機事態」を説明するようなことは避けていた。むろん、いたずらに中国を刺激したくないからだ。

「存立危機事態」の法的定義はこうだ。

わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

アメリカが攻撃された場合でも、この事態にあると認定すれば、武力行使ができる。つまり戦争に巻き込まれる可能性があることを意味する。安倍元首相は「台湾有事は日本有事」と力説していたが、総理を退任してからのことだ。現職の総理がそのようなことを言ったためしはない。

だが、高市首相は官僚の書いた「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断しなければならない」という模範解答に満足できなかった。自分の意見を付け加えて文章を修正し、以下のように答弁したのである。

「たとえば海上封鎖を解くために米軍が来援する、それを防ぐために何らかの武力行使が行われる事態も想定される」

「台湾を完全に支配下に置くためにどういう手段を使うか。単なるシーレーンの封鎖かもしれないし、武力行使かもしれないし、偽情報、サイバープロパガンダかもしれない。それが戦艦を使い武力の行使もともなうものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースだ」

台湾有事が起これば、自衛隊が米軍と共に中国に対して武力行使に踏み切るかもしれない。戦慄すべきことだが、集団的自衛権の行使を容認した時点から隠されてきた想定であったに違いない。

それでも、政治経験豊富な高市首相が、このような答弁をして国会で問題にならないと判断するはずはない。安倍元首相の後継者として高市首相を支持するあまたの人々の期待に応えたい思いが自己抑制の壁を突き破ったといえるのではないか。

10日の衆院予算委で、大串博志氏(立憲)は首相に発言の撤回を促した。高市首相は「政府の従来の見解に沿ったもので取り消すつもりはない」と反論したが、あきらかに質問のポイントをずらしていた。大串氏は「政府の従来の見解」ではなく、台湾有事のさいに日本が戦争に加わる可能性に言及したことの撤回を求めたのである。

「これが認定されれば防衛出動です。日本の国として戦争に入るということ。撤回・取り消しはしないのか」

執拗に食い下がる大串議員に、高市首相は「政府の立場を変えるものではない」と繰り返したが、最後にはとうとう「反省点として、特定のケースを想定したことを明言するのは慎もうと思う」と言うところまで追い込まれた。毅然とした態度が売り物の女性宰相として、これはちょっぴり、かっこ悪かった。官僚任せにせず、確信をもって加筆したはずではなかったのか。

この記事の著者・新 恭さんを応援しよう

メルマガ購読で活動を支援する

print
いま読まれてます

  • 不満だった官僚の“模範解答”。午前3時の“赤ペン先生”高市早苗「台湾有事は存立危機」発言までの全内幕
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け