高市早苗を支える「官邸の中核メンバー」が参議院から“出禁”のナゼ?野党の猛反対を押し切り“裏金メンバー”を官房副長官に据えた首相に吹き付ける逆風

 

聞く耳を持たぬ首相が毀損した「参院の独自性」

石井氏は苦しい立場だ。高市首相がやろうとしている人事に真っ向から反対するのは憚られる。それでも意見は言わねばならない。報道によると、石井氏は「もし強行した場合は国会運営に支障が出かねない」と複数ルートで官邸に伝えたそうである。

だが高市首相は聞く耳持たず、佐藤氏を官房副長官に任命した。石井氏はメンツをつぶされた格好になった。参院の某自民幹部は「院の独自性が損なわれる」と嘆息したという。

「参院の独自性」。よく出てくる言葉である。「良識の府」とも言われる。“常在戦場”の衆院とくらべ、より中長期的な視点を持って政治活動を行えるからだ。要は、衆院とは選挙の仕方が違う。任期が6年で、解散がない。少なくともその間、与野党とも同じ顔ぶれだから、自然、協調的になる。

しかし、「良識の府」はもはや過去の話で、官邸支配と自民党党本部への力の集中が強まった第2次安倍政権以降、「参院の衆院化」批判や「参院不要論」が高まっているのも事実。だからこそ、参院としては裏金問題に対して強い倫理観を示す必要があるということなのだろう。

高市内閣がスタートした翌日の10月22日、佐藤氏の人事に対する野党の反発はさっそく表面化した。野党国対委員長会談にのぞんだ後、立憲の斎藤参院国対委員長は記者団にこう語った。

「官邸と参議院のパイプ役、連絡調整役として本当にふさわしいのかどうか。こういうような人事がなされたことは遺憾に思います」

「当面の間、お越しをいただくのは控えた方がよい」

その後、議員運営委員会へ佐藤氏が出席するのを拒否する野党の総意が伝えられ、与党側もこれを了承した。このため、議運における政府提出法案の説明は、衆院議員の尾崎正直官房副長官が代行した。参院本会議で行われた代表質問でも、佐藤氏の陪席は認められなかった。

それにしても、参院自民党はもっと佐藤氏を擁護してもよさそうなものである。野党の意向に流されているように見えるのはなぜなのだろうか。時事通信の記事(11月4日)に以下のような指摘がある。

佐藤氏は旧安倍派元幹部の世耕弘成衆院議員とも近い。このため世耕氏と旧茂木派出身の石井氏の不仲が今回の事態に影響しているとの見方もある。

たしかに、安倍政権時代に参院幹事長として勢威を誇っていた世耕氏を、“裏金問題”についての参考人招致に引っ張り出したさい、それを主導したのは、現参院幹事長である石井氏だった。しかし、それだけで説明できるほどコトは単純ではない。

一強といわれた安倍政権下なら、官房副長官人事に今回ほど冷淡な態度はとれなかっただろう。参院幹事長は安倍派5人衆の一人、世耕氏だったし、今井秘書官や萩生田光一氏といった強権の実行部隊がにらみをきかせていた。

少数与党の今、事情は全く違う。参院幹事長である石井氏は野党と仲違いするわけにはいかない。議運で野党側にそっぽを向かれたら、日程協議が進まず、委員会審議が空転し、政権が窮地に陥るのは火を見るより明らかだ。石井氏が官邸に佐藤氏の副長官起用を考え直すよう進言した主な理由はそこにある。

高市首相とて、少数与党での国会運営を参院幹事長の調整力に頼らざるを得ないはずだ。にもかかわらず、石井氏の意見を受け入れずに人事を強行し、石井氏は面目を潰された形になった。

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