“日本攻撃の正当性”を習近平に与えてしまった高市首相「存立危機」発言が中国に“威嚇”と受け止められたことのヤバさ

 

「台湾独立支持」が台湾内で150万人も減少したという現実

注意しなければならないのは、中国側が今回の問題を、もはや高市個人ではなく日本全体の問題としてとらえ始めたことだ。

台湾に関する高市首相の誤った主張は、決して単独の政治的妄言ではなく、その背景には、平和憲法の束縛を突破し、「軍事大国」の地位を追求しようとする日本の右翼勢力の偏執と傲慢さがある。

冷戦構造に慣れた日本人には伝わりにくい表現だが、要するにかつて連合国として戦った相手が「蘇ってきている」と世界に警告する内容なのだ。

陣営対立のなか欧米と歩調を合わせ、また連合国を国際連合と言い換えてきた日本人は忘れているかもしれないが、「日本が再び軍国主義へと向かっている」となれば、それは中国一国の敵ではない。国連の敵ともなりかねない要素を含む。それは明らかにフェーズを変えた仕掛けなのだ。

世界には日本の過去にアレルギーを持つ国は少なくない。マレーシアを訪問した高市がクアラルンプールの日本人墓地を訪問し慰霊碑に献花した際、現地の人々から「加害の歴史にこそ目を向けろ」と反発が出たことは記憶に新しい。

靖国神社参拝もそうだ。遊就館には過去の日本の戦争を正当化するような展示が見つかる。バラク・オバマ大統領もかつて安倍晋三首相の靖国参拝を「失望した」と批判し、不快感を示した。ドナルド・トランプ大統領はこの件に興味がないようだが、丁寧に説明を受ければ不快に思うだろう。

現状の米中関係はコロナ禍で大統領選挙を控えたトランプが選挙対策で中国批判に舵を切った時とは大きく違っている。

日米首脳会談後に共同記者会見が見送られたのも中国に対する配慮だと報じられている。共同声明も出せなかった。

トランプは米中首脳会談後のインタビュー(CBS)で、「われわれ(米中)は非常にうまくやっていける。彼らを打ち負かすよりも協力することで、より大きく、より良く、より強くなれる」と語っている。

中間選挙を見据え経済で実績を誇りたい大統領が中国から必死に利益を持ち帰ろうと画策する中、関心の薄い対立に巻き込もうとする日本をどう思うだろうか。

さらに「台湾有事は日本の有事」の肝心の台湾の動きだ。《台湾民意基金会》が10月に行った20歳以上の台湾人への調査で「台湾独立支持」と回答した人数は10カ月前から約150万人減り、ポイントで7.5も下落した。

そうした情勢下で、日本だけが「台湾有事」を大げさに叫ぶメリットは何なのか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年11月16日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: 首相官邸

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • “日本攻撃の正当性”を習近平に与えてしまった高市首相「存立危機」発言が中国に“威嚇”と受け止められたことのヤバさ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け