これから「日本株式会社」は大復活する。米中貿易戦争で浮上した技術立国ニッポンの新たな勝機

 

日本企業の技術自立と戦略的対応

日本企業は、米中貿易戦争の激化を見据え、技術自立を進めてきた。航空機製造、造船、電気自動車(EV)、半導体、AIといった分野では、少量生産ながら技術継承を維持し、研究開発投資を怠らなかった。

例えば、三菱重工業は航空機部品の開発でボーイングと協業しつつ、国産ジェット機MRJ(現・SpaceJet)の技術を磨いてきた。造船分野では、川崎重工業や三井E&SがLNG船や高付加価値船舶で世界市場での競争力を維持している。

EV分野では、トヨタ自動車が全固体電池の開発で先行し、2025年以降の実用化を目指している。

半導体では、ラピダスが2ナノメートルプロセスの国産化に挑戦し、2027年の量産開始を目標に掲げる。

AI分野でも、NTTや富士通が独自の生成AIモデルの開発を進め、グローバル競争に参入している。

これらの取り組みは、日本企業が単なる下請けではなく、技術主導で市場をリードする意欲を示している。

日本政府もまた、経済安全保障を強化する戦略を展開した。2022年12月の経済安全保障推進法では、半導体、蓄電池、航空機部品など11分野を「特定重要物資」に指定し、国内生産体制の強化と備蓄拡大を決定した。

ジェトロの報告によると、日本企業の対米投資も活発化し、2023年には半導体関連でデンソーや三菱電機がデラウェア州で10億ドル規模の出資、富士フイルムがテキサス州で7億ドルの事業買収を行うなど、戦略的投資が加速している。

日本政府の対抗策と「日本株式会社」の復活

トランプ政権の関税強化に対し、日本政府は冷静かつ戦略的な対応を見せた。

2025年6月のG7サミットでは、石破茂首相がトランプ大統領と会談し、関税措置の見直しを求めた。

また、経済産業省はサプライチェーンの強靭化を目的に、国内生産能力の強化と多国間協力の推進を打ち出した。

インドやベトナムとの連携強化もその一環であり、米国が推進する「デ・リスキング」戦略に呼応しつつ、日本独自の経済圏構築を目指している。

日本企業の対応も迅速だった。米国の高関税によるコスト増を吸収するため、生産拠点の多元化を進めた。

例えば、トヨタは北米での現地生産比率を高め、関税リスクを軽減。パナソニックはEV電池の生産を米国や欧州にシフトし、サプライチェーンの柔軟性を確保した。さらに、半導体製造装置メーカーのSCREENホールディングスは、米国のCHIPS法に基づく助成金を活用し、現地での生産能力を強化している。

このような動きは、「日本株式会社」の復活を象徴する。かつてバブル期に海外企業買収を積極化した日本企業は、失敗も多かったが、現代の日本企業はより戦略的だ。

アテル投資顧問のデータによると、1980年代のM&Aブームとは異なり、現在の日本企業は技術力と資金力を背景に、選択的かつ高付加価値な投資を行っている。

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