帝国主義への逆戻りか、計算された戦略か?米トランプ「力による外交」の複雑な構図を読み解く

 

グリーンランドという米中対立の最前線かつ最重要拠点

ここにきて中国はアメリカによる蛮行・暴挙に対して、法の支配の重要性を前面に押し出し、compensation(賠償)を要求する行動に出ていますが、トランプ大統領がそれをまともに聞くことは無いでしょうし、あったとしても、今後の米中協議の際のプレッシャー要因、そしてディール・メイキングのための材料として用いられるだけだろうと考えます。

ベネズエラ産の原油の権益へのコントロールを奪われたことで、これまで安価に原油を提供する代わりに味方につけてきたキューバなどの周辺国に対するグリップは確実に弱まり、中国が支援することは叶わなくなると同時に、アメリカによる常識外れともいえる一方的な軍事行動を目の当たりにし、対米非難を鎮静化することで“次は我が身かも知れない”という中南米のリーダーの恐れを巧みにアメリカに利用されるという【アメリカによる中南米からの中国の排除】という作戦がうまくいくことになります。

イランに続き、ここでもベネズエラという中南米への入り口をアメリカに蓋をされる(閉ざされる)という中国排除のための策が講じられています。

そして今、米中の対立の火花の最前線かつ最重要拠点がグリーンランドということになります。

なぜグリーンランドか?

いろいろなポイントが挙げられますが、まずはグリーンランドの物理的な位置とそれが物語る地政学リスクを、
ぜひ北米と北極圏、欧州が一望できる地図を思い浮かべながら、見てみたいと思います。

グリーンランドは長年、欧州のデンマーク王国の自治政府として国際法上存在していますが、グリーンランド(首都ヌーク)とデンマーク(首都コペンハーゲン)の直線距離は約3,550km~3,570kmで、飛行機では直行便で約5時間半~6時間程度(コペンハーゲンから)かかり、地理的には離れています。

それに対し、アメリカ合衆国で一番大西洋側に張り出しているメイン州北部からデンマークの首都ヌークまではおよそ2,000kmの位置にあり、カナダのエリス岬とグリーンランドはたった26kmしか離れておらず、橋などで容易に地続きにできる距離であるため、実は地図学上は、グリーンランドは“アメリカ”に分類されています。

「距離が近いからアメリカの一部だ」と言いたいのではなく、その近さゆえに、そこに中ロの影響力が及ぶことにあった場合、カナダとアメリカの北米大陸国にとっては国家安全保障上の大きな脅威となります。

ゆえに「国家安全保障上、グリーンランドが必要」というトランプ大統領の“こじ付け”は、決して妄言で済ますことはできないとも考えられます。

言い方を変えると、アメリカ合衆国が一方的に(勝手に)自国の裏庭と認識して影響力を及ぼしてきた中南米地域同様(南端)、北端で同じく裏庭的な位置にあるグリーンランドに影響力を及ぼそうという思惑が働くのは、乱暴であることには変わらないのですが、理解はできるかもしれません。

問題は物理的な近接性だけではなく、この近接性がおよそ26kmという狭い海、それも深く、ずっと凍結していた北極海を間に持つという特性ゆえ、この“海峡”ともいえる海域に中国やロシアの潜水艦が潜んでいるとして、それらが実は原子力潜水艦だったりしたら、それはカナダおよびアメリカ合衆国によっては大きな国家安全保障上の危機と言えます。

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