トランプに切り捨てられるという不安妄想。欧州各国が「プーチンと直接話さなくてはならない」と言い出した理由

 

安全保障会議で繰り返し出された欧州の「都合の良い主張」

もちろん戦争当事者であることから、ロシアがそのまま国際社会の表舞台に復帰してくることには、ネガティブな側面も多々ありますが、ロシアが行ったのと同じく、主権国家が隣の主権国家を力に任せて蹂躙し、力による正義を押し付ける手法を公然と取り始めるアメリカに対する対抗軸・バランサーとしてのロシアの役割を欧州各国が再度模索し始め、自ら(欧州)をその間に位置する“究極のバランサー”という役割に就かせようという、非常に都合の良い主張が繰り返し出されました。

現在、この「プーチン大統領との仲直り」的なお話しについて、欧州全域で共有されているわけではありませんが(ロシアの次のターゲットと言われるバルト三国やポーランドなどは非常に否定的)、フランスやイタリア、そして英国がプーチン大統領との直接対話を再開すべきと考えていて、今回の会合でもその必要性を強く主張しており、その主張の輪がじわりじわりと広がっているのを感じました。

例えば、ドイツ(メルツ首相)はこれまで頑なに「プーチン大統領とのチャンネルを再開することは、プーチン大統領に力を与えるだけで、何ら得することは無いので、ドイツは与しない」とフランスとイタリアの意見に反対し続けてきましたが、今回のMSCの場で、フランスのマクロン大統領と共に独仏間での核共有論についての協議を始める旨、公表してからは、ちょっと反対の強度と意味合いが変わってきているように見えます。

独仏の核共有の議論については、実際の中身はこれから詰めるとのことですので、続報を待ちたいと思いますが、両国が核共有の議論を行う背景にはいろいろな理由・要素があります。

1つは「アメリカの核の傘、NATOによる核共有への過度の依存からの脱却と欧州独自の安全保障体制の強化」という観点です。

ドイツについては、まだアメリカとの特別な関係による恩恵に期待しつつも、その反面、一向に一貫しないトランプ政権の対欧州の態度への不安から、フランスが掲げる欧州独自の安全保障体制の強化というアイデアにも与して、迫りくるロシアからの軍事的な脅威に備えるという意図があります。

今回の微妙な方針転換は「独仏が組むことによって、対ロ核抑止が強化される」ということを期待しての政治的な判断と言われていますが、ここで「ロシアからの迫りくる脅威の軽減のためには、ロシアと真っ向から対立するだけではなく、抑止の体制を強化しつつ、直接的な対話のチャンネルを再開させる必要がある」という思惑も強調されていることがポイントで、ドイツが対ロ姿勢を緩和させる兆しだと捉えることができると考えます。

そしてこれはまた、ロシアのプーチン大統領がアメリカのトランプ大統領の方しか見ておらず、欧州には目もくれないという現状に対して、「欧州は自らの安全保障、生存の危機がかかっているにも関わらず、それを保証するための枠内から除外されている」という、非常に強い“取り残されてしまった感”・懸念を有していることの表れとも理解できると考えます。

「ウクライナ問題と迫りくるロシアの脅威は直接的に欧州の安全保障上の懸念でもあるのだから、欧州の声が聞き入れられるべきだし、いかなる決定の過程にも全面的に参加していなくてはならない」という原理原則に気付き、その実現のために、あえてロシアを引き込むという、なんとも奇怪な策に打って出ようとしているのではないかと、勘繰りたくなります。

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