すでに分散して制度化された中身
勘の良い人は、ここで察知したかもしれないが、その後「スパイ防止法」そのものの制定運動は鳴りを潜めたものの、法案の中身は、分散されて別の法律として制度化されていく。
◎2013年「特定秘密保護法」成立 行政が「特定秘密」を指定し、漏洩すれば重罰を科すことになった。 ◎2017年「共謀罪(テロ等準備罪)」成立 実行前の「計画」や「準備行為」が処罰対象になった。 ◎2022年「経済安保推進法」成立 防衛・外交などに限定していた「秘密指定」と「漏洩罰則」を、経済・技術分野にまで広げた。
名前は変わっても、骨格は似ており、「国家が秘密を広く指定できる」「犯罪が実行されなくても、その前段階で処罰できる」という危うい部分は、すでに整備されてしまっているのだ。
「誰と関わったか」が罪になる社会
では、今回の「スパイ防止法」は、一体なにを加えようとしているのか? 一つは、「外国勢力との関係」そのものを処罰できるようにすること。 これまでの法律は、秘密の漏洩や具体的な犯罪計画を対象にしたものだったが、今回は、「外国政府の指示を受けて活動する者」「外国勢力のために情報収集を行う者」「影響工作を行う者」といった、関係性そのものを処罰対象としたいらしい。 つまり、「何をしたか」だけでなく、「誰と関わったか」ということが問題になる可能性があるということだ。
もう一つは、「秘密指定」がなくても処罰できるようにすること。 特定秘密保護法は、「秘密指定」が前提になっているが、今回は「国家利益に関わる情報一般」へと対象を広げたいらしい。 ひとえに「国家利益」と言っても、その範囲は、経済から安全保障、供給網、先端技術まで、あまりに広い。 大雑把に定義されてしまうと、国民にとっては、「触れてはならない範囲」が際限なく広がり、知る権利は狭まるばかりだ。 これらは「国家情報局」構想と合わせて議論されているようだが、定義も歯止めも十分に検討されていないままである。
「疑われないように黙る」空気の到来
高市早苗は、首相になってから急にこれらの法案に前のめりになったわけではない。 4年前、政調会長だった際、経済安全保障の議論のなかで「スパイ防止法に近いものを入れ込んでいくことが大事だ」と言い切っている。 (FNN 日曜報道 THE PRIME)
高市にとって、「情報統制」「監視と罰則」は、かなり思い入れの強いものなのだろう。 もし「スパイ防止法」が成立し、恣意的に運用されるようなことが起きればどうなるか。 思想や交友関係といった属性が、政府の監視対象になり得るし、一度その仕組みができてしまえば、「経済安保のため」という言葉のもとに、秘密の範囲も、監視の対象も、いくらでも広がっていく。 そうなれば、社会には「疑われないように黙る」という空気が静かに出来上がってしまうだろう。
安全保障に関わるテーマには触らない、外国と関わる活動は避ける、余計な発言はしない──心理的な萎縮はじわじわと強まり、力強く自由な言論も減ってしまうし、問題視すべきことが見て見ぬふりをされて過ぎ去ってしまう。 特に、弱体化してしまったマスコミにとっては、息の根を止められるようなものだろう。
内部文書をもとにした調査報道や、安全保障をめぐるスクープは、事実上不可能になる可能性まである。 「国益のため」として制定された法律が、結果として重大な国益を損なうかもしれない。 「スパイ防止法」が目指すのは、国家を守ることなのか、それとも国家に従順な国民を作ることなのか。 そこを見抜かなければならない。(『小林よしのりライジング』2026年3月3日号より一部抜粋・敬称略。このほか、小林よしのりさんの記事「ゴーマニズム宣言」はメルマガご登録の上お楽しみください)
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