中国製AIを利用する米国企業が「急増」の衝撃。トランプ政権内で激化する“全面禁止”を巡る議論に欠けているモノ

 

3年前に設立されたばかりのムーンショットAIが大論争を起こす凄まじさ

一方では、先述した「蒸留」に関して中国モデルの不正を問う声もメディアを中心に高まってきている。

ただ後者に関しては、7月23日の『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が「世界のAI専門家、モーンショットの『Kimi K3』モデルに対する米国の『ディスティレーション(蒸留)』主張に反論」で、その根拠があいまいである点を報じている。

詳細な紹介は避けるが、中国側にもさしたる動揺は確認できない。

一方、規制をすべきか否かをめぐる議論はトランプ政権内で活発になっている。

それを詳しく報じているのは『ウォール・ストリート・ジャーナル』だ。タイトルは「米主要AI企業のトップら、中国製モデルに警鐘」である。

中国製AIモデルを規制すべきとする意見には2種類あり、一つは共産主義国家が進めるモデルの広がりに対する警戒であり、もう一つは〈高度なサイバーセキュリティー機能を備えたAIモデルが無料でダウンロードできるという〉ことへの有害性を問う声だ。

後者の代表はアンソロピックのダリオ・アモデイCEOである。

こうした意見に対してベンチャーキャピタリストでホワイトハウスのAI顧問も務めるデービッド・サックス氏は〈新たな法律や政策を利用して競合他社を妨害しようとする試み〉と、その主張を一蹴する。

また米政治誌『POLITICO』は、7月22日の記事「スタートアップ創業者ら、中国製オープンウェイトAIの遮断を行わないようトランプ氏に要請」の中で、〈200社近いシリコンバレー企業がトランプ政権に対し、中国製のオープンウェイトAIモデルへのアクセスを遮断しないよう強く求めた。さもなければ、次世代の米国スタートアップ企業に致命的な打撃を与えるリスクがあると訴えた〉と報じている。

また米『フォーチュン』誌も、「米政府が中国のAIにパニックに陥る中、ジェンセン・フアン氏はKimiのようなオープンソースモデルを『優れている』と評価し、禁止するのではなく受け入れるべきだと語る」というタイトルで、民間には規制に反対する声があることを伝えている。

いずれにせよ、たった3年前に設立されたムーンショットAIが、これほどの論争を巻き起こすのだから凄まじいというほかない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年7月26日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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