【1-1.議題そのものが割れた】
イランのバガイ外務省報道官は10月4日の定例会見で、米国の提案は「依然として核問題が中心だ」と述べ、イランの主な関心はホルムズ海峡にあるという立場を示しました。
同報道官は、核問題を制裁の緩和と交換する協議には原則として入っていないとも述べ、追加の見解を今後伝えるとしています。
同じ日、ガリバフ国会議長は、米国がイスラマバード覚書に基づく七つの条件を受け入れるまで、ホルムズ海峡は閉じたままだと主張しました。
ここで注意したいのは、この発言と、海峡の現場の状況は別物だという点です。海峡は完全に閉じているわけではなく、各国のタンカーは革命防衛隊の威嚇や攻撃の危険にさらされながら通航を続け、米国はイランの港を封鎖しています。
ガリバフ議長の言葉は、海峡の通航を米国との取引材料として手放さないという意思の表明と読むのが正確です。
翌5日には、ペゼシュキアン大統領が、交渉には「意味がない」とまで述べました。
米国の側では、バンス副大統領がロイター通信のインタビューで、核兵器を望まないのなら60%の濃縮ウランがなぜ必要なのかと問い、言葉と行動を交換するつもりはないと述べています。トランプ大統領も、イランでは一体誰が仕切っているのか分からないと、交渉相手そのものへの不信を口にしました。
イランの外務省は、米国の当局者の立場が食い違い、発信がちぐはぐだと反論しています。
先週までの争いは、海峡の通航の回復と封鎖の解除のどちらを先にするかという順番の問題でした。しかし今週は、そもそも何を交渉するのか、核なのか海峡なのかという議題の入り口で、双方が割れています。
交渉の現場では、議題で合意できない段階は、順番で揉める段階よりも、さらに前の段階です。
【1-2.扉はまだ閉じていない】
それでも、扉が完全に閉じたわけではありません。同じ10月4日の会見で、バガイ報道官は、イランが持つ60%の濃縮ウランをロシアが引き取るという提案について、「国益に基づいて検討している」と述べたからです。
また、米ブルームバーグ通信は10月1日、アラグチ外相が国連総会の際に欧州や中東の外交官に対し、制裁の緩和と引き換えに、爆撃を受けた核施設へのIAEAの査察官の立ち入りを認める考えを非公式に示したと報じました。
イランの国営通信はこの報道を同じ日に否定しており、確認された事実ではなく、観測気球の一つとして受け止めるべきでしょう。ただ、ペゼシュキアン大統領も9月下旬、米CBSテレビのインタビューで、査察官の受け入れについて問われ「その通りだ」と答えていました。
「公の場で強硬な言葉を並べながら、水面下では濃縮ウランの扱いと査察という核心の部品を少しずつ机に並べ始めているのではないか」
今のイランの振る舞いからは、そのような二重の構えがうかがえます。
ロシアのウラン引き取り案は、核の議題を海峡の議題から切り離して動かすための器になり得ます。
ただし、そのロシアについては、イランの超音速巡航ミサイルの開発を秘密裏に支援してきたと、英フィナンシャル・タイムズ紙が9月上旬に報じています。報道が事実であれば、ロシアは片手で武器の技術を渡しながら、もう一方の手で仲介者の顔をしていることになります。
仲介者を選ぶときに、その仲介者が誰の利益を背負っているのかを見極めることは、調停の基本中の基本です。
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