「トランプ政権を変えろ!」アメリカ国民に「公開書簡」で直接語りかけたイランが狙う、“交渉相手の背後”を揺さぶる手法

 

【2-5.二つの海峡はつながっている】

二つの海峡の緊張が、なぜ世界の原油の流れに直結するのかを、輸送の経路から整理しておきます。

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾の産油国の原油が外洋に出るための唯一の海の出口です。そのため、サウジアラビアは国を東西に横断する東西パイプラインで原油を紅海側のヤンブー港まで運び、UAEは陸上のパイプラインでホルムズ海峡の外側にあるフジャイラ港へ原油を運んで、海峡を迂回してきました。

欧州の調査会社ケプラーのデータによれば、9月のイランを除く中東の原油輸出は戦前の水準を取り戻し、フランス通信(AFP)によれば、イランを除く中東の原油輸出のうち、ホルムズ海峡を通らずに積み出される割合は、戦前の17%から約4割にまで増えています。

ただし、ここに落とし穴があります。

ヤンブー港から積み出された原油が欧州に向かうならスエズ運河の方向へ北上しますが、日本や中国、インドなどアジアへ向かう原油は、紅海を南下してバベルマンデブ海峡を抜けなければなりません。つまり、ホルムズ海峡を避けてアジアに原油を届けるための主な迂回路は、もう一つの海峡を通っているのです。

フーシ派がバベルマンデブ海峡の周辺を押さえたとされるなかで、サウジの空港や施設を狙うことは、ホルムズ海峡の圧力を紅海に逃がしてきた仕組みそのものを揺さぶることを意味します。

現に10月4日には、バベルマンデブ海峡の南のモカ沖で、タンカーが近くで複数の爆発があったと報告しています。10月5日には、ホルムズ海峡に面したオマーンのハサブの沖で、革命防衛隊がタンカーに「引き返さなければ攻撃する」と無線で警告し、タンカーが進路を変えたと英国の海事当局が発表しました。

北海ブレント原油の先物は、今週、1バレル100ドルを挟んで上下しました。G7は10月2日、国際エネルギー機関(IEA)を通じて4カ月間で1億バレルの石油備蓄を協調して放出し、最初の20日間に軽油を前倒しで大量に放出することで合意しています。また、米国のメキシコ湾を襲った嵐で沖合の生産設備が予防的に止められたことも、原油価格を下支えしました。

日本が輸入する原油の9割以上は中東産で、その大半はペルシャ湾岸の産油国からホルムズ海峡を抜けるタンカーで運ばれてきます。200日分を超える備蓄を持つ日本と違い、東南アジアの国々の備えは薄く、3月の時点でタイの備蓄は61日分にとどまっていました。

こうしたなか、10月8日にフィリピンのマニラ首都圏で開かれたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の閣僚会合の場で、国際協力機構(JICA)とフィリピンのエネルギー省が石油安全保障の協力に関する共同声明に署名し、経済産業省の高木啓副大臣が立ち会いました。

決まったのは、JICAがフィリピンの石油備蓄の仕組みや供給網、緊急時の対応を調べ、法的な枠組みや運用の在り方を提言し、専門家の派遣や研修で日本の備蓄の経験を伝えるという協力です。これは、高市首相が4月に打ち出した約100億ドル規模の「POWERR Asia(パワーアジア)」構想の一環に位置づけられています。

一方、日本経済新聞が会合前に報じていた、サウジアラビアとUAEがアジアの石油備蓄に協力する方針については、本稿の執筆時点で、会合で何が合意されたのかを確認できていません。

備蓄を何日分積み増すのか、産油国がどの国にどれだけ優先して供給するのかといった具体的な中身も、まだ示されていません。日本は、産油国と消費国を結ぶこの枠組みを、10月11日にサウジアラビアで開かれる国際エネルギーフォーラムでも示す予定で、そこで産油国側がどこまで踏み込むかが次の焦点です。

前号でご紹介したとおり、IEAのビロル事務局長は、最も重要なコモディティーは「信頼」だと述べていますが、その「信頼」がどのような形で示されるのか、非常に注目しています。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • 「トランプ政権を変えろ!」アメリカ国民に「公開書簡」で直接語りかけたイランが狙う、“交渉相手の背後”を揺さぶる手法
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け