【デフレ】企業経営者が国家予算削減を迫るのは自分の首を絞めるも同然

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人件費削減ですべての企業の売り上げが減少する

そして、国民経済における「最大の消費者」は、政府である。日本政府の場合、何しろ年間の予算は100兆円規模だ。「企業の感覚」で国民が政府に予算を削ることを求め、政府が応じると、影響は日本国内の広い範囲に渡る。より具体的に書くと、政府の支出から所得を得ている無数の企業の所得が減少してしまう。総需要が拡大しているインフレ期にはともかく、デフレ期に政府が企業の所得を引き下げる政策を打つと、更なる消費、投資の減少を、つまりは所得の縮小をもたらすだけである。

あるいは、政府が国内の労働者の実質賃金を引き下げる政策を講じると、「会社の外」の膨大な数の生産者の所得が減ってしまう。「膨大な数の生産者」は、「膨大な数の消費者」でもある。実質賃金引き下げ政策で、人件費を削減することができた企業は一時的には喜ぶかもしれないが、何しろ自社の従業員のみならず「膨大な数の消費者」の所得が減少しているのだ。当然、消費者の所得減少を受け、売上や利益が激減する企業が続出する羽目になる。

無論、企業経営者が短期的な利益を追求した場合、人件費削減で利益を拡大することは可能だ。「ビジネス」という視点で見れば、人件費削減は正しい経営手法なのかも知れない。

ところが、ミクロ(個別)の企業にとって「所得(利益)」を増やす合理的な人件費削減が、国民経済というマクロに合成されると、中長期的には「全ての企業の売上が減る」という、実に非合理的な結果をもたらしてしまうのである。いわゆる、合成の誤謬が発生するわけだ。

多くの経営者は、特に株主資本主義が蔓延した国の経営者は、視点が短期化する。彼らにとって、自分たちは懸命に費用を削減し、利益を捻り出している以上、財政赤字を積み重ねる政府は許されざる存在に思えてしまう。特に、長引くデフレで売上を増やしにくい環境下で、日々、苦労を続けるビジネスリーダたちは、尚更そう思ってしまうのだ。

というわけで、国民経済のパイであるGDPが増えにくいデフレ期であるにも関わらず、経営者たちは政府に対し、「政府は無駄遣いをやめろ。支出を切り詰め、増税し、財政を黒字化しろ」と、圧力をかける(かけている)。

経営者たちの圧力を受け、実際に政府が増税や公務員削減、公共投資削減といった緊縮財政を実施すると、多くの国民の所得が減少し、企業の製品やサービスが売れにくくなる。

製品やサービスが売れなくなると、業績が悪化した企業の経営者は、なおのこと費用の削減に苦しみ、財政赤字を増やす政府が許せなくなり、「政府は無駄遣いをやめろ」と、更なる緊縮財政を要求する。デフレはさらに深刻化し、話がいつまでたっても終わらない。

 

『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.299より一部抜粋

著者/三橋貴明
中小企業診断士。07年頃、「2ちゃんねる」上での韓国経済に対する分析、予測が反響を呼ぶ。『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)など著書多数。メルマガでも小気味良い文体と正確な数値データに基づく的確な論理展開で日本経済を“コンサルティング”している。
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