実は同機の開発は技術とコストの両面で難航を極めていて、12年3月にはペンタゴンが19年まで実戦配備は不可能と発表したために、コンソーシアム参加国も自国の議会や世論の支持を得られにくいと判断して購入契約を延期もしくは見直しを決めている。セールスを受けていたインドは購入を止めてロシア製に切り替えた。まあ簡単に言うと「いつ出来るかわからん」状態なのである。にもかかわらず、イ・日・韓が目をつぶって飛び降りるが如きに契約に踏み切ったのは、米国のお覚えめでたくしようという政治的な魂胆からのことなのだ。
実際に製造が始まるとして、その組立・検査・メンテナンスの拠点は米フォートワースのロッキード・マーティン社の工場、欧州ではイタリアのカーメリ空軍基地、そして日本のたぶん三菱重工業のどこか(たぶん名古屋)の工場の3カ所に設けられる。そもそも同機には日本製の高度部品が組み込まれていることに加えて、この3拠点はお互いに部品を融通しあうシステムで結ばれることになっているので、日本製の部品が米国でもイタリアでも使われる。そうして出来上がった戦闘機は、まずは米国からイスラエルへと輸出されるが、それは事実上の武器輸出に当たるということで鳩山内閣以降、「例外」規定が積み重ねられた挙げ句に、昨年4月、安倍内閣は閣議決定により武器禁輸3原則を撤廃し「防衛装備移転3原則」に置き換えた。
ということは、米国の右翼や軍産複合体の勢力がF35を真っ先にイスラエルに輸出して、イランやパレスチナを爆撃するのを応援しようという軍事挑発的な策謀に同調して、安倍は武器禁輸政策を転換したのであり、その背景には、オバマの“弱腰”路線は米国の主流ではなく、2年後には必ず共和党政権が戻ってきて強硬路線を採るに違いないという情勢分析が(外務省あたりで)行われているからだろう。
こういう背景を知っていないと、安倍がイスラエルと日本の国旗が立つ前で「テロとの戦い」を叫ぶことが、「イスラム国」のみならずアラブ・イスラム世界にどう映るかということの想像力が働かない。日本とイスラエルは「F35友達」であり、イスラエルが真っ先に入手する世界最先端のステルス戦闘機は(「イスラム国」には向かわないが)パレスチナやレバノンのアラブ民衆を大量殺戮したり、イランの核施設を空爆したりするのに使われるに決まっている。米国がそういう武器を開発して、欧州や日本が言わば「グローバル化された軍産複合体」の一員としてそれに協力し、イスラエルの虐殺作戦を助けている──と、向う側からは見えてしまう。
それでも“中国包囲網”路線にしがみつく?
2年後に共和党政権が戻ってきて、米国が軍事優先路線と対中国強硬策に振れると見るのであれば、安倍にとっては今が我慢のしどころで、オバマ政権からの「中国、韓国と仲良くしろ」「歴史修正主義は許さない」という繰り返しの警告も聞き流しておけばいいということになる。
しかし、2年後に共和党政権が生まれるかどうかは定かではないし、なったとしても共和党右翼の政権になるかどうかは分からない。私はむしろクリントン女史の出馬で民主党政権が続く可能性が、少なくとも現時点では60%の可能性があると見ていて、そうなると、(安倍政権が2年後まで続いていたとしての話だが)日米関係は非常にまずいことになる。
そこの見極めがつかないうちに、安倍が今年5月訪米の際に米議会で演説をするとなると、彼は一体何を語るのか。対中国姿勢の硬軟については確かに民主党と共和党右派に違いはあるけれども、日本の歴史修正主義を許さないという点では民主党も共和党もない。米国内政治では、在米中国人と韓国人のロビイストの力が両党とも無視できないほど強まっているので、なおさらそうである。とすると、いずれにせよ安倍は「私は歴史修正主義者ではありません」と弁解に努めなければならないが、それを言ってしまうとオバマ政権からは「じゃあ何で中国、韓国と仲良く出来ないんだ」と押し込まれるし、他方、国内の安倍支持の右翼勢力からは裏切りだと糾弾されることになる。8月15日に予定された「戦後70年首相談話」のための「有識者会議」の結論を待つことなく、安倍は自分の言葉で語らなければならない羽目となるのである。
事の本質は、本誌が安倍第2次政権発足の当初から言い続けているように、自民党における伝統的な右翼愛国と親米保守のなあなあ的同居の矛盾が、安倍政権では張り裂けてしまいかねないアイデンティティ危機に陥っているということである。河野洋平=元衆院議長は24日、名古屋市での講演で、「自民党がこれ以上“右”に行かないでほしい。いまは保守政治というより右翼政治のような気がする」と語ったが、まさにその右翼と保守の間での安倍のフラフラ状態の戦略思考の混濁こそが世界中の心配事なのである。
『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175より一部抜粋
『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175 《目次》
【1】《INSIDER No.774》
ネタニエフ=イスラエル首相訪米をめぐる緊迫
──日本とイスラエルが「F35友達」であることの意味
【2】《FLASH No.088》
「農協潰し」は安倍政権の政治的怨念
──日刊ゲンダイ3月5日付から転載
【3】《CONFAB No.174》
閑中忙話(2015年02月22日~28日)
【4】《SHASIN No.151》付属写真館
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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