新型コロナウイルスの蔓延による医療崩壊を阻止するため、大規模なロックダウンが行われているアメリカ。しかし、「荒療治」とも言えるその施策は大国の体力を確実に奪いつつあるようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、世界的エンジニアで自身も封鎖環境にあるワシントン州に住む中島聡さんが、ロックダウンにより米国各地で起きている深刻な事態を紹介するとともに、このまま行けばアメリカは日本以上の借金大国になる可能性もあると記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2020年4月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
米国のコロナ対策
先々週のメルマガに、「医療破綻前夜の米国」という文章を書きましたが、まさにそこで予想していたような状況になりました。特にひどいのがニューヨークで、ニューヨーク州だけで1日1,000人以上が新型コロナウィルスで命を落とすような状況になっています。
この状況を受けて、ニューヨーク州だけでなく、私が暮らすワシントン州やカルフォルニア州でも、州単位での「ロックダウン」が行われるようになりました。食料品を含む生活必需品を販売する店や、電気ガス水道などのインフラを除いた、全てのビジネスに対して、営業停止もしくは自宅からの業務への切り替えが「命令」として通達されたのです。
医療崩壊を避けるにはやむを得ないとの判断ですが、これが地域経済に深刻な影響を与えています。レストラン、バー、小売店などが軒並み閉鎖になったため、そこで働く従業員の大半がレイオフされることになりました。
私の息子もシアトルでレストランを2軒経営していますが、従業員26人中22人をレイオフしました。私の息子だけが特別ではなく、シアトルで13軒のレストランを経営するトム・ダグラスも、850人いた従業員を5人に減らし、「この騒ぎが収まった後も、半分のレストランは再オープン出来ないだろう」と語っています(参照:「Tom Douglas Gives a Reality Check About His Restaurant Group: ‘We Are Broke’」)。
結果として、大量の人が同時に職を失うことになりましたが、彼らの大半が貯蓄を持たない「その日暮らし」の人々なので、いきなり収入がなくなって家賃が払えなくなるという状況が多発しています。
そんな状況に対処するために、州知事は「今月に限って言えば、店子が家賃を滞納しても追い出してはいけない」という命令を出しました。さらに、連邦政府が緊急で可決した2兆ドルの予算のうち、4分の1ほどを失業者や低所得者層に向けて配ることを発表しました(一人当たり1,000~2,000ドルの現金が支給されます)。
しかし、それも一時しのぎでしかありません。たとえ、このロックダウン状況が4月末に解消されたとしても、多くのレストランや小売店はそこまで持ちこたえることは出来ないので、職場復帰は絶望的です。つまり、少なくとも今年いっぱいは、失業率が20%を超えるような異常な状態になることがほぼ確実なのです(参照:「US jobless claims skyrocket to 6.6 million, doubling last week’s record, as coronavirus layoffs persist」))。
つまり、医療崩壊を避けるための施策が経済崩壊を引き起こしているのです。
連邦政府は国単位でのロックダウンの指示は出していませんが、トランプ大統領が「ベストケースでも10万人の人が命を落とす」と発言してしまったことが波紋を読んでいます。
米国の専門家のシミュレーションによると、新型コロナによる死亡者の数を
- 何もしなかった場合、100万人以上
- 様々な施策をした場合:10万人~24万人
と見積もったレポート(とそれをベースにした、官僚からの説明)を受けてのことです。