台湾海峡や尖閣諸島周辺での中国の動きに対し緊張が高まるなか、日本が取るべき道を探るべく、朝日新聞が元陸将の番匠幸一郎さんへのインタビューを掲載。この人選にはお墨付きを与え、確かな認識を伝えていると認めながらも、記者が表明する懸念や安全保障への理解が生半可で思い込みが強いと厳しく指摘するのはメルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、防衛力強化が他国への脅威となり警戒させるという日本のマスコミに見られる間違った見解を正し、警戒させ緊張を高めているのは中国との視点での報道を求めています。
マスコミは軍事を戦争ごっこだと思っている
6月11日の朝日新聞に、1ページを割いて元陸上自衛隊西部方面総監・番匠幸一郎さんのインタビューが載りました。
「東シナ海、南シナ海の平和は保たれるのか。中国の空母などが展開するのに対し、米海軍が監視を強める。台湾海峡でも米中はにらみ合う。また中国は武器の使用を含む措置を可能とする海警法を施行し、尖閣諸島周辺の緊張が高まる。日本はどうすべきか。島嶼(とうしょ)部防衛に取り組んだ番匠幸一郎元陸将に聞く」
私は番匠さんとは大変に親しい間柄で、一緒に仕事をしたこともあります。数多の自衛隊OBの中で、世界のどこに出しても通用する数少ない軍人で、その番匠さんを引っ張り出した朝日新聞の目も、それほど狂っている訳ではないことがわかりました(笑)。
番匠さんは、「台湾有事は日本有事」との認識を示しています。また、「尖閣や台湾の危機を想定することは、日本の最大の貿易相手国、中国を仮想敵とすること。マイナスは計り知れません」という問いに対しては次のように明言しています。
「現代国家の標準は安全保障が存在の基本ということです。経済があるからといって妥協することがあってはなりません。主権、領土や国民の命を守ることは国の一丁目一番地であり、法の支配や自由、民主主義など決して譲れない普遍的価値と、経済のメリットとを交換することはあり得ません」
このように番匠さんの答えは明快なのですが、取材した駒野剛編集委員が後記の中で次のように述べているところに、軍事問題に関する日本のマスコミの認識の浅さを感じざるを得ません。
「一方、あくまで守りを固めるためとはいえ、こちらの防衛力を展開させることには、相手側のあらぬ警戒心を高めたり、偶発的な衝突を招いたりする懸念が伴う」
駒野さんだけではありませんが、ここに安全保障問題を扱うマスコミの一知半解ぶりが現れています。守りを固めるためと言う一方、外国に侵攻可能な構造の軍事力を持つ国が強力な兵器を展開すれば、相手は警戒しますし緊張も高まるでしょう。しかし、自衛隊には海を渡って外国に上陸侵攻する能力は備わっていません。それは軍事力としての構造を見れば明らかです。航空自衛隊の戦闘機は北京まで飛べる航続距離だから侵略できるなどというのは、幼稚な認識です。
中国も、そんなことは思ってもいません。自衛隊は日本の国境の内側で外国に手出しを躊躇わせるような防衛力を強化していくのです。それでも中国は難癖をつけるでしょうが、そんな幼稚なことをいったら世界から笑われるよと一蹴すればよいのです。駒野さんはこんなことも言っています。
「自衛隊は最後のとりでだ。その前に役割を果たすべき外交の架け橋が日中ともに脆弱(ぜいじゃく)になってはいまいか」
その前にとは、なんたる言い草でしょう。防衛態勢の強化には時間がかかるのです。戦争ごっこのように簡単に考えては困ります。外交と防衛力整備は同時進行でなければなりません。
駒野さんは優秀な記者のようですが、軍事力の見方はステレオタイプで、兵器を配備すれば攻めていくことに使われるものだと思い込んでいるようです。これを機に認識をあらためて欲しいと思います。また、台湾や日本に警戒心を抱かせ、緊張を高めているのは中国であることも、中国が国境に配備している軍事力の攻撃能力と台湾と日本周辺での行動を通じて、ぜひ報道してもらいたいものです。(小川和久)
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