いつから仕事が“苦痛”になったのか。若者がまた犠牲、人よりカネを優先した社会のツケ

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何事にも効率ばかりを求める社会の風潮が、若い世代から仕事への好奇心をも奪ってしまったようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、「働くことの意識」調査により明らかになった若者たちの仕事に対する意識の激変ぶりを紹介。その原因にバブル崩壊以降の企業の「カネ優先」の姿勢と大学のキャリア教育及び「シューカツ」を挙げるとともに、ただの労働としての働き方を強いられている現状を批判的に記しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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好奇心なき教育の末路

いったいいつからこんなにも「働くこと」がつまらない、苦しい作業になってしまったのか。

日本生産性本部が新入社員を対象に実施した「働くことの意識」調査で「自分の能力を試したい」と答えた人が、全体のわずか1割にとどまっていることがわかりました(日経新聞10月18日付朝刊)。

これは調査がスタートした1968年以降で、もっとも低い数字です。1980年代には4割近くが仕事で「自分の能力を試したい」としていたのに、2000年以降、減少の一途をたどり、ついに10.5%にまで減ってしまったというのです。

その一方で、急増しているのが「楽しい生活をしたい」の39.6%。だんとつのトップです。また、働き方についても「人並みで十分」と考える人が63.5%、「若いうちに好んで苦労することはない」37.3%でいずれも過去最高を記録しました。

もっとも、これらの結果は2019年6月にすでに公表されていたものです。

なぜ、過去の調査結果を日経新聞が社会面に掲載したのか?はわかりません。

ただ、コロナ禍でプライベート志向が強まっていることが、さまざまな調査で明かされているので、2年前の件の調査結果以上に「働く意識」は変わったと推測されます。

かつて「自己実現の場」として仕事に熱中した世代とは、全く異なる価値観の世代に変わりつつある。いや、「完全に変わった」と受け止めた方がいいのかもしれません。

私は常々、人間には「仕事」「家庭」「健康」という3つの幸せのボールがあると言い続けてきました。3つのボールをジャグリングのようの回し続けることができる「働き方」の実現が求められている、と。

仕事は単に賃金を得るためだけの作業ではなく、人生を豊かにする最良の手段です。

働くことにより自律性が高まり、能力発揮の機会や自由裁量権を得ることで成長し、自尊心が高まります。他人との接触、他人を敬う気持ちなどは人間関係を良好に導く力になりますし、身体及び精神的活動、1日の時間配分生活の安定などは、人の心と身体を健康にします。

これらは仕事がもたらす潜在的影響と呼ばれ、人に生きる力を与える大切なリソースなのです。

とはいえ、そういったリソースを企業が働く人にもたらしたのは過去のお話で、バブル崩壊以降、企業は人よりカネを優先し、生産性をあげる“道具”として人を粗末に扱ってきました。

そのツケが、働く若者の意識を変え、「コスパのいい仕事=いい仕事」という意識を拡大させたのです。

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