リモートワークが増え、家の中に目を向けた人たちによって高まった需要がある一方で、仕事に出ていたからこそ必要だった物は売れなくなっていきました。百貨店の紳士服売場に「苔」を売るスペースができたという話題は、その縮図と言えるのかもしれません。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』著者の理央さんは、松屋銀座が紳士服売場で「苔」と「コケ・テリウム」用のグッズを売り始めた理由を解説。奇抜な発想に見えて理にかなった売り伸ばし戦略で、学ぶべき点が多くあると伝えています。
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なぜ、デパートの男性服売り場で、苔を売るのか?~売り伸ばしのための戦略思考トレーニング
ここのところ、百貨店がいろいろ工夫をしています。まず面白いなと思ったのは、銀座の松屋が紳士服フロアで、8月に植物の「苔」売り場を設けたこと。カジュアル系の紳士服売り場をたたんだ後に、イベントスペースを作り、そこに、50種類以上の苔やその関連商品が売られている、ということです。
これがなかなか面白くて、苔そのものに加えて、インテリアに映えるような、「コケ・テラリウム」というグッズも、販売されています。おしゃれな瓶の中に、苔と合わせて、小さな岩や綺麗な砂が敷いてあり、その上に人形や動物の模型などが、うまく飾られています。また、これらのパーツも販売されているので、自分でオリジナルの風景を作れる、というキットも売られているのです。
苔は、育てやすく、水やりは2週間に1度くらいと、メンテナンスの手間がかからないのが特徴です。通常の観葉植物は、水やりや肥料のやり方が難しく、やりすぎると逆に枯れたり、小さな芽が出てきて、見た目もよくなくなったりと、意外と厄介です。
なので、苔のことがわからない初心者が、安心して育てられることもあって、初心者が参加できる、このテラリウムを実際に作ってみる、ワークショップなどもやっているそうです。その意味では、体験型マーケティングの施策でもあります。
このコロナによってリモートワークが増え、出勤が減って、スーツの販売が減りました。そこで、デパート側としても、スペースの活用を考えざるをえなかったのです。
また、顧客側も、リモートワークもあり、自宅にいる時間も増えます。そうなると、何か部屋に癒しが欲しい、というニーズが出て、手っ取り早い植物の人気が出そうです。その中でも手入れが簡単で、マンションなどでも育てやすい苔に目をつけた、ということです。
日経新聞によると、このスペースの発案者は女性の方だそうです。松屋のテラリウムの写真を見てみると、小さい瓶から、金魚鉢のサイズくらいの大きなものの中に、ジオラマのようなものまでかなりの種類が売られています。
紳士服売り場で、苔を売ることは、一見奇抜な発想に見えますが、このような背景を考えてみると、とても理にかなったアイディアでの販売促進です。やはり、厳しい状況の今、世の中がどう動いているのかをつかみ、自社で何ができるかを把握して初めて、このようなアイディアが出てくるのでしょう。
この取り組みまでの流れである、市場の変化、販売の機会の増加、男性をターゲットにする戦略の構築、売り物の開発、という理にかなった、一連の流れの中での企画に見受けられます。その意味でも、「新しい顧客が取れない」という売れない問題の解決策の、参考にできる事例です。
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