有能な経営者は、亡き後もその魂に感化されるビジネスマンが多いものです。ホンダの創業者本田宗一郎氏もまさにその一人。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、 本田氏が生前、口を酸っぱくして語っていたことをカーデザイナーの岩倉信弥さんが紹介してくれたインタビューを掲載しています。
本田宗一郎が“激怒”しながら伝えたモノづくりの極意
いまなお、熱き経営者魂に感化される人が後を絶たないホンダ創業者・本田宗一郎(1906~1991)。その情熱をいまなお引き継ぐ、クルマづくりの原点とは……。
1970~80年代にかけて「シビック」や「アコード」などのデザインを手掛けてきた岩倉信弥さんに、本田宗一郎から受けた薫陶や、「怒られて掴んだ」モノづくりの極意を語っていただきました。
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本田さんは凄く大きな夢を語るのですが、それが決して机上(きじょう)の空論にはなっていない。夢は大きく、目標は高いんだけど、やっていることは現場主義なんです。
やはりちゃんと物を見て、直(じか)に物に触れ、現実をよく知らなきゃいけないという「現場・現物・現実主義」。それを外すと「やりもせんに!」と拳骨(げんこつ)やスパナが飛んでくる。
こちらは大学を卒業して多少知恵がついている分、「いやそれは無理です」とか、屁理屈を一所懸命並べるんだけど、言おうとすると怒られる。しょうがない、やるしかない、で、やっているうちにできちゃった、ということが何度もあった。
人間は窮地に追い込まれて、いうなれば2階に上げられて梯子(はしご)を外され、さらに下から火をつけられる、という絶体絶命の危機に立たされ、初めて湧いてくるアイデアや閃きがあるものです。それを生み出すためのシステムを、ホンダでは「缶詰」「山ごもり」「カミナリ」と呼んでいました。
「缶詰」は一つの部屋に閉じ込められて、アイデアが出てくるまで一切部屋から出してもらえない。家に帰ることも許されず、その空間でとことん考え抜く。
「山ごもり」は温泉に行けと言われ、喜び勇んで出掛けると、その安宿には紙と鉛筆しかない。最新設備のある研究所を離れ、立ち位置を変えることで新たなアイデアを生み出すのです。
最後の「カミナリ」は、言うまでもなく本田さんのカミナリです。これほど恐ろしいものはないから、皆逃げ出そうとする。僕も逃げ出したかったんだけど、それも悔しいから、なんとか怒られないで済む方法はないかと考えた。
結局、なぜ怒るのかと考えたら、本田さんは経営者として考えているんです。
こうしなきゃお客さんは喜ばないという発想だから、考え方が哲学的になる。一方、こちらはデザイナーとしての視点だけで考えている。つまりシンキングレベルが違うわけです。