東大名誉教授が告発。津波で命を奪い、多くの人々の故郷をも奪った「真犯人」

Tsunami,:,04/30/2011,Fukushima,Japan
 

東日本大震災による津波で犠牲となった、多くの尊い命。しかしそれは「防ぎ得た災害」であった可能性も高いようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、地震調査研究推進本部の要職を務めた東大名誉教授による「告発本」の内容を紹介。東京電力を忖度した内閣府防災担当による愚行を白日の下に晒しています。

死なずに済んだ多数の命。東日本大震災の津波被害を拡大させた真犯人

2002年に政府の地震本部は「長期評価」を発表し、「三陸沖から房総沖のどこでも津波地震が起きる可能性がある」と指摘した。「30年以内に20%」と数字も提示した。ところが、東京電力は何ら対策を講じることなく、あの未曾有の原発災害を招いてしまった。

ここまでは、よく知られた話である。だが、東電と秘密会合を重ねた政府内部の防災担当組織が、莫大なカネと労力を要する福島第一原発の津波対策をしないで済むよう、「長期評価」を歪曲する画策をしていたことまでは、広く認識されているとは言い難い。

福島県沖で津波地震は起こらない。そういうことにすれば、東電は対策をしなくてよい。それと辻褄を合わせるため、福島県周辺地域の防災計画までも捻じ曲げ、津波への備えがおろそかになった結果、多くの人々の命が失われたのだ。

「長期評価」をまとめた当事者である東大名誉教授、島崎邦彦氏(元日本地震学会会長)が、このほど出版した『3.11大津波の対策を邪魔した男たち』で、“告発”した内容だ。

筆者は、2018年10月25日発行の当メルマガ「大津波『長期評価』を歪めた内閣府、対策を怠った東電」で、福島第一原発事故の刑事責任を問う東電裁判を取り上げ、島崎氏の証言に言及したことがある。

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今回の告発本は、その証言をさらに掘り下げて詳述した内容であり、原発利権と国家権力の堕落によって国民多数が悲劇のどん底に落とされた事実経過を物語る歴史的資料といえる。

島崎氏は、阪神・淡路大震災後に、文部科学省の特別の機関として設置された地震調査研究推進本部(地震本部)で長期評価部会長を1995年から2012年までつとめた。過去の地震を議論し、今後に起こる可能性を予測するのが部会の役割で、2002年7月に「長期評価」をまとめたが、内閣府の防災担当大臣から文部科学大臣に「待った」がかかった。そして、内閣府の防災担当は、発表を見送るよう文科省の地震本部事務局に迫った。

地震本部は抵抗し、本文はそのまま発表した。しかし、表紙の前書きを以下のように変えることを了承した。

評価結果である地震発生確率や予想される地震の規模の数値には誤差を含んでおり、防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。

地震本部の発表は防災に役立たないかのような書きぶりだ。これでは、対策しなくても良いと読むことができる。島崎氏は「長期評価に泥を塗られたと感じた」という。

津波地震は日本海溝に沿う地域で起こる。記録が残っている江戸時代以降の400年の間には、3回しか津波地震はなかった。その発生を予測した「長期評価」は“原子力ムラ”にとって都合の悪いものだった。

東電の福島第一原発が「三陸沖~房総沖」という津波地震の想定区域に含まれており、しかもこの原発は以前から高い津波に脆弱であろうことがわかっていたからだ。

「長期評価」が出た後、当時の原子力安全・保安院は不測の事態に備え、予想される津波の高さを計算するよう要求したが、東電は、福島県沖には津波地震が起こらないというウソの混じった報告書を使って、拒んだ。

この東電の姿勢は、国の地震防災計画に悪影響を及ぼした。日本の防災の元締めは、首相が議長をつとめる「中央防災会議」だ。その事務局こそ、東電を忖度し、「長期評価」に圧力をかけた内閣府防災担当なのだ。

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