自らの性加害疑惑を巡り、『週刊文春』の発行元である文藝春秋と同誌の編集長に対し、名誉毀損に基づく損害賠償請求及び訂正記事による名誉回復請求を求める訴訟を東京地裁に起こした松本人志(60)。請求額は5億5,000万円と伝えられている。事実相当性などの観点から「松本不利」との見方が支配的だった中での提訴に、世間からは驚きの声も上がっている。松本サイドは、報道されたような性的行為やそれを「強要」した事実はないとして争う模様だ。
飲み会あったことは否定せず… “性的行為”内容について争う方針か ダウンタウン松本人志さん「5.5億」文春提訴 #FNNプライムオンライン https://t.co/omxMzNTYWS
— FNNプライムオンライン (@FNN_News) January 23, 2024
週刊誌報道の“行き過ぎ”を懸念する人々からは、「松ちゃん頑張れ」の声も上がる。その一方、吉本興業としてではなく松本単独の提訴となったこともあり、「もともと勝ち目がない裁判だよ」「裁判は休業しなくてもできる。その損失を賠償させるのは無理筋」「スラップ訴訟ではないか」といった批判の声も聞かれるのも事実だ。
「敏腕」と伝えられるも…松本の代理人を務める“ヤメ検”エリートに疑問の声
今回の訴訟で松本の代理人を務めるのは田代政弘弁護士(57)。東京地検特捜部出身の、いわゆる「ヤメ検」と呼ばれるエリートだ。所属する八重洲総合法律事務所のHPによると、企業法務や企業防衛、経済法関連業務や保険法関連業務に加えて民事介入暴力も取り扱うとしており、各種報道では「敏腕」とも伝えられている。
自民党のパー券裏金問題では国民を盛大にズッコケさせた東京地検特捜部だが、それでも「元特捜」の威光は営業力抜群。松本はスゴ腕を雇うことに成功したと思われたのだが――
「松本さんはお金なら唸るほど持っています。身の潔白を証明し名誉を回復したいと言うのならば、もっと高名な弁護士を用意できなかったのか、というのがもっぱらの評判です。ネットにも事情をよく知るユーザーからは、彼の人選に対して疑問の声も上がっています」(民放の報道番組制作関係者)
事実、SNSや掲示板を見てみると、
《松本の代理人弁護士って、もしや陸山会事件で有名なあのお方?》
《文春の嘘というより、過去の虚偽捜査報告のほうが注目されてて草》
《松ちゃんそれはアカン、やるなら一番いい弁護士じゃないと…》
といった懸念の声が、松本批判や擁護の立場を超えて目立つという状況なのである。いったいどういうことなのか。
田代氏は、東京地検特捜部時代に何をしたのか
旧統一教会との真正面からの対峙で知られる紀藤正樹弁護士は22日、田代弁護士の過去についてX(旧Twitter)に投稿。「法曹界では著名人です」とした上で、陸山会事件において虚偽公文書作成及び行使罪で告発されるも不起訴となり、法務大臣からは懲戒処分を受け検察官を辞職したという経緯を紹介した。
参考: 松本氏の代理人の田代政弘弁護士は法曹界では著名人です。https://t.co/IdGfIa2FoU 陸山会事件/容疑者/石川知裕の捜査報告書に虚偽の記載をしたとして/虚偽公文書作成及び行使罪で告発されたが不起訴/法務大臣からは減給6ヶ月100分の20の懲戒処分を受け検察官を辞職https://t.co/fwpUO1TMz0
— 紀藤正樹 MasakiKito (@masaki_kito) January 22, 2024
陸山会事件とは06年の週刊誌報道をきっかけに浮上した、小沢一郎衆院議員(81)の資金管理団体「陸山会」が土地取得をめぐり、政治資金収支報告書に虚偽の収支を記入したとされる事件。東京地検特捜部は10年、当時衆院議員だった石川知裕(50)を含む元秘書3名を逮捕し、全員が有罪となった。
11年には検察審査会が小沢を強制起訴したが、その際の決め手としたとされるのが、当時検察官だった田代氏が作成し東京第五検察審査会に証拠として提出した捜査報告書。しかし田代氏はこの捜査報告書に、石川が虚偽の収支記入について「小沢先生に報告し、了承も得ましたって話したんですよね」と語ったとする「虚偽の記載」を行っていたのだ。
捜査報告書で石川がこう口にしたとされているのは、保釈後の10年5月での再聴取の席。石川はそこにICレコーダーを持ち込み聴取の内容を録音していたのだが、そのデータには「小沢に報告した」とする記録がなかったために報告書の内容が虚偽であったことが発覚、田代氏は虚偽有印公文書作成・行使と偽証の容疑で告発された。
「最も悪質・重大な虚偽公文書作成の事実」
この田代氏の行いについて、元検事でカルロス・ゴーン氏の代理人もつとめた郷原信郎弁護士は、自身のブログにこう記している。
田代検事の行為は、検察官の作成名義の捜査報告書という公文書に虚偽の記載をしていたということであり、虚偽性についての認識があれば、虚偽公文書作成罪という犯罪に該当する。虚偽公文書作成という犯罪は、形式上犯罪に該当する行為であっても、可罰性の幅は非常に広い。公文書の内容に事実に反する点があったとしても、それが官公庁内部に止まるものであれば、実質的な処罰価値はない場合も多い。しかし、本件のようにその報告書が司法作用に重大な影響を及ぼすというのは、最も悪質・重大な虚偽公文書作成の事実と言えよう。(ブログ『郷原信郎が斬る』2011年12月19日より)
なぜ田代氏がこのような行為に及んだのかは当然ながら定かではないが、ウィキペディアの「陸山会事件」の項には、
産経は、司法修習生時代に親しい仲だった男性弁護士の弁として「今回の問題は、上から言われたことをきちっとやったことで起きたのだろう」と田代の人柄から『検察の組織的犯行』を匂わす記事を載せている。
と書かれていることを紹介しておく(件の産経の記事は現在ネット上では確認不能となっている)。
先述の通り虚偽有印公文書作成・行使と偽証の容疑で告発された田代氏だが、2012年6月27日、嫌疑不十分で不起訴。しかし同時に法務省は国家公務員法に基づき減給6カ月の懲戒処分とし、田代氏は同日辞職した。
松本は田代氏の過去を知っていたのか
公務員、しかも法を司る検察官による捜査報告書の偽造は、民主主義国家の根幹を揺るがすものであり、週刊誌の誤報などとはレベルの違う大不祥事。
そんな捜査報告書という公文書を偽造し告発された田代氏が今回は弁護士として「文春の虚偽報道」を暴く側に回っているというのは、なんとも不思議な構図ではないだろうか。松本は田代氏の経歴を知らなかったのか、あるいはすべてを知った上で、「毒をもって毒を制す」という策に出たのか。いずれにしても注目されるのは、今後の裁判の行方だ。