日米関税交渉において、トランプ大統領が当初提示していた25%の関税率を15%まで引き下げることに「成功」した石破政権。しかしその内容に含まれた日本からの対米投資80兆円の米国9割・日本1割という利益配分を巡っては、賛否両論が巻き起こっているのが現状です。なぜ我が国はこのような条件を呑んだのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアの中島聡さんが、トランプ氏の思惑を推察しつつ、交渉を担った赤沢大臣がここまでの譲歩を行った理由を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日米貿易交渉の解釈
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
日米貿易交渉の解釈
日米の貿易交渉の結果については、先週号でコメントを書いたし、YouTubeでも説明しました(「日米交渉の裏側。日本だけが背負う『ハイリスク・ローリターン』の構図」)。
その後、交渉担当だった赤澤大臣から以下のようなコメントが出ました。
- 80兆円は、タダで米国に渡すもの(彼らの用語で「真水」)ではなく、投資・融資・債務保証のセット。
- 当初の日本からの提案は、利益を50:50に分けるものだった。
- トランプ氏が利益配分にこだわるため、そこは譲歩して、米国90:日本10で決着した。
- 80兆円のうち、(利益配分に関わる)投資は1~2%なので、そこを譲歩しても小さな話。
- 日本は、利息で儲ければ良い。
- 債務保証は、貸し倒れの際の保証をするだけなので、その場で税金は出て行かない。
米国からも公式な発表があり、多くの人が「日本と米国で言っていることが違う」と指摘していますが、それは間違いです。双方の主張を見る限り、日米それぞれの発言に矛盾はなく、単に、自国の国民に対する説明の仕方が違うだけです。
どんなプロジェクトであれ、巨額なお金を必要とするプロジェクトは、投資と融資を組み合わせます。投資とは株主として経営に関わり、プロジェクトが成功した際には、持分に合わせた利益をもらう権利と紐づいています。一方の融資は、債権者として会社にお金を貸すだけなので、得られるのはあらかじめ決まった利息だけです。
大規模なプロジェクトの場合、投資と融資の比率は、1:9や2:8のように融資の形で調達する方が多くなるのが一般的です。プロジェクトの運営を行う出資者としては、可能な限り、自分たちが提供する資金は抑え、銀行などの金融機関からの融資の割合を増やすことにより、「投資効率」を高くしたいからです。
また、日本の会社が他の国に進出する場合、株を51%以上持ち、資本金だけでは足りない分を融資で補うのが一般的です。株を51%以上持っていれば、株主として経営権を握れるし、事業が成功した場合に、大きな利益を得ることが出来るからです。
株を10%程度持つケースもありますが、その場合、経営には参加せず、単に会社としての関係を築く、もしくは、純粋な投資家として、キャピタルゲインを狙う、などの意味があります。
なので、日本が米国に投資をする際に、50%以上持つのか、10%しか持たないのかでは、意味が大きく変わってきます。









